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サクマを阿部ちゃんの元に置いてきて正解だった。そして、そのサクマを作った阿部ちゃんがいる場所ではさすがに言えない話だった。
康二や兄、ふっかにも。少なからずサクマと過ごした時間がある人たちの前ではこんなこと言えない。サクマとは一度顔を合わせたくらいの涼太くんと二人きりだったからこそ、この胸の内を吐き出すことができた。
「……おかしいかな、私」
今こうしてる間にも機械人形が誕生して人の元に渡っているかもしれない。どんどん機械人形が普及しているこの世界で、こんなことを思っているのは私だけだと思う。
「おかしくなんかないよ」
涼太くんの落ち着いた声が響く。
「Aが人一倍優しいだけ」
その声に、いつの間にか俯いていた顔を上げた。
「人一倍愛されてるだけ」
その私の目としっかり視線を交わせた涼太くん。とても真剣で、でも優しい顔をしていた。
「俺は機械人形に詳しいわけじゃないし実際に付けたこともない。だから自分がどう思うかは分からない。でも今の話を聞いて別におかしいとも変とも思わないよ。むしろ確かになって、そう思った」
否定されるとばかり思っていた私。これから軍の人間として機械人形をつけるかもしれないのに、私の事を肯定したことに驚いた。
「ただ、少なくともあの子は例外なんじゃないかなと思うけどね」
涼太くんはそこまで言うともう一度コーヒーを口に運ぶ。
「あの子のことだって俺は人間だし分からない。でもAの話を聞いて、率直にあの子はAについてる事や“主人を一番”とすること自体が自分の一番したいことなんじゃないかと思ったよ。言うなれば、それが“自我”なんじゃないかな」
「そんな…なんで……」
「Aのその気持ち。そんな気持ちを持ってる子が主人だから。それに尽きるかな」
カップを置いて微笑んだ涼太くん。その表情に嘘は見えなくて、信じがたいことだけど疑う由もなかった。サクマが、サクマの“自我”が“主人を一番”とすること？そんなことあるのだろうか。涼太くんの発言は疑わない、けど信じられはしなかった。
「優しい人にはそばにいてほしいでしょ」
「え…」
「Aなら分かるんじゃないかな、その気持ち。あの子もそうだと思うよ」
阿部のこと見てくるねって、また涼太くんは私に向かって微笑んでから地下へと向かっていった。
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2022年12月2日 0時
