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「阿部」
「んー？誰だった？」
振り返った彼の姿を見て反射的にひゅっと息を吸ってしまった。初めてではないその姿、でもたくさん見たものでもないし慣れてなんかいない。
「あべちゃーん！」
「あぁ2人か。いらっしゃい、どうかした？」
駆け寄ったサクマの後ろで固まった私。阿部ちゃんと目が合ってハッとして、吸った息をやっと吐くことができた。
「あ、ごめんね。怖いよね」
私の様子で悟ったのか困ったように笑った阿部ちゃんは「だてさんと一緒にAのとこいてあげて？」とサクマに指示するとまた“それ”に向き合い始めた。
「……大丈夫？」
「あ…うん、久しぶりでちょっとびっくりしちゃっただけ」
涼太くんに顔を覗かれてまた深呼吸をした。サクマはその様子を心配そうな顔で見つめている。
「どーしたの？」
「ううん、大丈夫」
「ちょっと上で待ってようか。阿部、勝手にコーヒー淹れるよ」
「うん、ごめんねー」
涼太くんに背中をトントンと叩かれてさっき降りてきたばかりの階段を上る。阿部ちゃんと会えて嬉しいだろうに、サクマもそれについてこようとした。
「……サクマ、阿部ちゃんとこいていいよ」
「んー？Aといっしょー」
「阿部ちゃん寂しいって」
小声でそう言うと、黙々と作業をしている阿部ちゃんの背中を見たサクマ。
「サクマとお話したいって、私涼太くんいるから大丈夫」
そこまで言うと納得したのか、にっこりと頷いたサクマは阿部ちゃんの背中へとかけていった。
・
「はい、砂糖とかいる？」
「ううん、ありがとう」
最近よく来ているのだろうか。阿部ちゃんの家なはずなのに慣れた手つきでコーヒーを淹れた涼太くん。彼もまた座って、それを一口飲んだ。
「どう？最近」
「どう…？別に…特に変わらず…」
「はは、そっか。よかった」
何に対してのどう？なのか分からないけど。多分何でもないんだろう。
「涼太くんは…どうなの」
「俺？特に変わらずかな」
「そっか、よかったね」
「うん」
何だこの会話。涼太くんを見るとカップをコトンと置いてふっと笑った。
「最近何してた？」
「最近？…えーっと、康二の飛行船に乗ったり…」
「へぇ？いいね、楽しそう」
「サクマがはしゃいでた」
「そっか、あの子そういうの好きそうだもんね」
はしゃいでた、と当たり前のように言った自分に少し遅れて疑問を持つ。サクマ、あまりはしゃいでなかったような…？
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2022年12月2日 0時
