着陸 ページ14
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「もうそろそろ迂回するから中入り、傾くから立ってられんよ」
海が少しずつ小さくなっている事に気付く。それがこの飛行船が今までとは別の方向に進んでいる事を意味していた。
ちらっと見えた康二の腕時計が示していた時間は思ったよりも遅くて。どれだけ長い間海を眺めていたんだろうかと考えた。
サクマに手を引かれて船内に戻った私はまた窓際の席に座って遠ざかっていく海をずっと眺めていた。一回外に出てしまったからもうここから見える景色に恐怖なんて感じなくて、それを察したのかサクマも私のそばにはおらず船内をぐるぐると動き回り康二に「これなぁに」と聞きまくっていた。
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「ちょっと怖いかもやけど」
無事に元の場所に着地した飛行船は何の音もたてずに佇んでいる。
「受け止める」
康二が少し申し訳なさそうに陸から手を伸ばす。さっきまでいた空の上からしたらなんてことない高さの段差だけど、乗り込み時同様ひとりでは少し怖い高さ。
行きとは違って何も言わずに康二の手を取った。そして、少しの勇気で段差を飛び降りるとしっかりと康二が私の身体を受け止めた。
「ごめんな」
「何が」
「ううん、先さっくんと戻っとき」
何となくだけど康二が謝った理由が分かる。だけど私は何も言わずに、一人でぴょーんと飛び降りたサクマと一緒に車へと戻った。
「……サクマ」
「なぁに」
何が起こってるわけでもなく、ただ後片付けをしているみんなを眺めながら相変わらずニコニコしているサクマ。待っているだけなのに楽しそうな彼に静かに声をかけた。
「楽しかった?」
「うん!きれいだったねぇ!」
空の上の景色を思い出したのか私の頭を撫でながら穏やかな表情になった彼。この表情はどこまでが本物で、どこまでが“主人のため”なのかは分からなかった。
「…サクマ」
「なぁに」
自分でもびっくりだった。こんなに機械人形に情を持つなんて。
「ありがとうね」
頭を撫で返す。ふわふわしてるなぁって、改めて触ったことが無かったその髪の毛を感じた。
その言葉を受けたサクマは一瞬だけ笑顔を解いて、自分の頭上に伸びる私の腕を不思議そうに見つめた。しばらくして何かを感じるように目を瞑った彼は
「サクマね、A大好きなの」
そんな言葉を放って、にっこりと笑った。
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2022年12月2日 0時