匙加減 ページ10
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「Aー」
向こうからパタパタと走ってくる姿。何となくぎこちないというか、運動神経が悪そうな走り方というか。
「……なんか、ダサい」
「Aー!こーじ呼んでる!」
その辺もサクマ次第なのだろうか、それともあの機械技師さんの匙加減なんだろうか。
テンション高めのサクマに手を引かれて飛行船の方に向かう。最終確認なんだろうか、康二はめいいっぱい背伸びをしながら船の一部に手を突っ込んで作業をしていた。
「康二」
「あー!もう乗れんで!ちょっと待ってなぁ!」
声をかけると真剣な顔から一転、私の方を見た康二はほっぺたに煤を付けてニッと笑った。
がしゃんと作業をしていたところを閉めてから私たちを連れて向かった先は搭乗口と言った所だろうか。慣れた手つきでそこを開けるとひょいっと飛び乗って、私に向かって手を伸ばした。
「ちょっと段差高いねん、掴まり」
確かに思ったよりもそこは高い位置で、手すりみたいなものが無いと少し怖い。あぁ、ついに乗ってしまうんだなと少しのマイナスな感情を抱いたことを胸にしまい込んで。
「だいじょーぶ、サクマいるよ」
そんな時に後ろから聞こえた声。背中をトントン、とさすられた。
「……康二だと何か不安だなぁ」
「何言っとんねん、落としたろか」
「うわっ」
そんな憎まれ口を叩いた途端グイっと体が持ち上げられて、気づけば康二と同じ場所に立っている。想像していたよりも力を感じた幼馴染の腕に思わず少し声が出てしまった。
「っと……あ、ありがと」
「俺の腕ナメたら痛い目見るで」
そしておでこにデコピンをくらった。痛い。
「いったいなぁ」
「ほら中入っとき、もう飛ぶで」
・
飛行船の中に入ると思ったよりも広くて驚いてしまった。外から見るのとは印象が違って、これからこの物体が空を飛ぶのかと思うと少々信じられない気もした。
「わぁ」
私から少し遅れて入ってきたサクマは辺りを見渡してまた目を輝かせる。本当に康二が喜びそうなリアクションするなぁと眺めていたら私の目線に気付いてニコッと笑う。
「すごいね!こーじ!」
「康二が作ったって分かってるの?」
「こーじ!ひかるも!」
サクマの知能レベルはちょっと分からないところがある。そんなこと分かるの?と思うこともあればいやこれ理解できないんかい、ということも。ちぐはぐなこの加減も、あの機械技師さんの匙加減なんだろうか。
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2022年12月2日 0時