おせーよ ページ22
・
私の頭にゆっくりと手が乗せられた。ふっかさんが慰めてくれてるのだろうか。
ただ、そのふっかさんが「えっ…」と声を漏らしたのだ。
その声に思わず顔を上げた。
私が見えたのは、ずっと降ろされていた彼の腕がどこかに向かって伸びている光景。その先の手は私の見えない所に。
「あ…べ、く………」
声にならない声でその名前を呼んだ。
その瞬間に、ずっと閉じられていた彼の瞼が
ゆっくりと上がったのだ
「あべくん……っ……あべくん！！」
ずっとそれを望んでいたのにいざその状況を前にすると信じられなくて。夢なんじゃないかと思うと同時に、ぼたぼたと彼の胸元に大粒の涙が溢れていく。
「うっ……あべく……うぁ、あぁぁ！！」
抑えきれなかった。どんな時よりも声を上げて泣いた。嬉しくて、本当に安心して。体温を感じる彼の身体全てが私の涙を溢れさせた。
そして私の頭に乗っている手が一度、二度とゆっくりと動いて。また少し顔を上げて彼を見ると、少し虚ながらも私の方に目線を向けていた。
阿部くんが、戻ってきたんだ。
「うぅ…よか、った……あべく……」
私の顔はぐっちゃぐちゃだろう。彼の入院着をびしょびしょにして、泣き続ける私を一生懸命に撫でてくれるその手。あったかくて、ものすごく優しくて。
「……たっく……早速康二との約束破ってんじゃねぇかよ……」
しばらくして聞こえたふっかさんの声は少し震えていた。一度、ぐすっと鼻を啜ってそしてふっかさんは私の肩を優しく抱く。
「Aちゃん…看護師さん呼ぼう」
「ふっ、か…さ……」
「うん、よかったね。安心したね」
少しだけ目を赤くしたふっかさん。すぐにこうやって気持ちを切り替えて、そして妖怪達や私を引っ張ってくれる。それはいつどんな時も変わらなくて、強がりだって言ってたけど彼の本質でもあるんだろう。
「……阿部ちゃん、おかえり。おせーよ」
彼にもまた、笑って声をかけた。そんなふっかさんにゆっくり目線を向けた阿部くんは、酸素マスクの中で少しだけ口角を上げた気がした。
「……おかえり……おかえりっ…！」
この言葉、やっと言えた。
言えるのをずっと待っていた。
私たちのその言葉を受けて
彼は私に握られている方の手を少しだけ、ぎゅっと握り返してくれた。
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小袖(プロフ) - ほんとに良すぎてふつえの小説として売り出して欲しいほどの満足感でした！伏線回収に気づいた瞬間が気持ちよくて、たくさん設定などを考えて時間をかけて作った作品なんだなと感じました。また他の作品もいくつか読ませていただいてますがどれも素晴らしいです！ (8月16日 13時) (
レス) id: 67585063eb (このIDを非表示/違反報告)
吹雪(プロフ) - 何度もループして読ませて頂いています！番外編も是非読んでみたいと思いTwitterフォロリク送りました。お手隙の際に承認して頂けると嬉しいです。これからも応援しています！ (2023年3月7日 1時) (レス) @page50 id: 828447a6ad (このIDを非表示/違反報告)
れみ(プロフ) - いつも素敵なお話読ませて頂いてます！ほんとにどれもいい作品で感動して涙が止まらないことも多々です、番外編なども読みたいと思ってしまったのでTwitter同じ名前でフォロー致しました、！承認していただけたら嬉しいです！これからも応援しています！だいすきです！ (2023年2月7日 5時) (レス) id: a15df57567 (このIDを非表示/違反報告)
akiaki(プロフ) - (続き) このお話のおかげでちょっと日常が楽しく､優しく思えました。素敵なお話ありがとうございました。 (2022年9月23日 9時) (レス) id: aa9a6e18cc (このIDを非表示/違反報告)
akiaki(プロフ) - はじめまして。もうアニメ化しません？って言いながら読んでいました。小説家さんなのでしょうか、気づかせるための伏線も泣かせるための伏線も上手すぎます。物語の感想じゃなくて申し訳ないのですが､このお話が紙の本として手に取りたくてしょうがありません｡(続く) (2022年9月23日 9時) (レス) id: aa9a6e18cc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ぽぷら
| 作成日時：2022年6月24日 23時
