時を超えて、私の涙を拭う手は。 (ページ27)

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「顔色は良くなったけどなーんかやつれてるのは変わんないから完食するまで戻らないでね」

目の前にパスタが置かれた。
なぜここの賄いはパスタばかりなのだろか。他のメニューもあるのに。

「ちゃんと食べてるって」

私の親なのだろうか。同い年なはずの阿部ちゃんは私が一口パスタを運ぶのを見届けてからやっと自分もフォークを手に持った。

「まじで、俺が受け止めなかったら大けがだったかもよ」

「それは本当にありがとう」

「目の届く場所にいて」

「だからもう大丈夫だって」

阿部ちゃんは私が従業員室で倒れてから何だかずっとヒヤヒヤしてるらしい。少し高い所にある資材を取ろうとすれば俺がやるって止めるし、運ぶ料理の数が多いと心配そうに私を目で追っている。

「大学は行けてんの」

「大学行かないのにバイト来ないよ」

「ふっかがすげー心配してるから」

くるくるとパスタを巻きながら阿部ちゃんは言う。「ふっか」という名前に私は思わずパスタを巻き付ける手を止めた。

「バイト大丈夫そう？って。さっきも来たよ」

「……今日大学で会ってるのに」

「平気なフリしてない？ふっかって結構そういうの鋭いよ」

「フリなんか…」

あの雨の日から数日経ち。ふっかはあの出来事を気にする素振りもなく至って普通に私と接している。ただちょっとした優しさを見せる回数が増えていたりとか、私に甘い目線を向けていることが多くなっているのは嫌でも気づく事だった。

「まぁ、俺が言えるのはふっかは意外と色んな事考えてるんだよって」

「…ん？」

「ふざけてるようでふざけてなかったり、ふざけてたり」

「ふざけてるじゃん」

「Aが思ってるよりも可愛い人だよ。俺付き合い長いから分かる」

確かに阿部ちゃんとふっかは昔からの友人らしいけど、だとして何の話をしているのかさっぱり分からない。頭にはてなを浮かべて手が止まったまんまの私に「食べな」って少し強く言った阿部ちゃんはいつの間にか取り出した携帯で写真を撮った。

「え、今私撮った？」

「ふっかにご飯食べさせたよ報告」

「親なの？」

この2人。仲がいいのはよろしいけど、私に関してのプライバシーは皆無だと思う。阿部ちゃんからふっかに私の情報は筒抜けだ。