時を超えて、私の涙を拭う手は。 (ページ25)

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がしゃん、と扉が閉まる音が聞こえた。
それと同時に俯いた私の頭にそっと乗せられた手。

「どした？」

ノートを見せてもらったあの時のように、優しい声が降ってくる。

「いや…何もっ」

「じゃあ泣くなよ」

頭の上にあった手はそっと私の頬に。またあの時と一緒だ。恐ろしいほど優しく、腫れ物を触るかのように私の涙を拭うんだ。

「何で泣いてんだよ…」

そして、苦しそうに声を漏らす。
絶えず溢れる涙を繰り返し拭いながら。

「泣くなよ、A……」

“泣かないで、Aちゃん。”

「うっ…う…あぁぁぁぁぁ！！」

何かが自分の中でプツンと切れた。
濡れているふっかの胸にしがみ付いて私は声をあげて泣いた。彼が近くにいるようで、でも物凄く遠くに感じて。自分でも訳が分からなかったけれど、必死に目の前のふっかに縋るように泣いて、泣きじゃくって。

雨でびしょぬれでも、冷たくても。そんなのどうでもよかった。かすかな温もりを、あの手紙たちに感じた温かさを。今私は何故かふっかに求めて、ふっかの存在の中で探していた。

「ごめん……ごめんなさい……っ…！」

それがとてつもなく嫌で。罪悪感しかなくて。
私が探しているのは“リョウくん”の温かさだ。それをふっかから必死に感じようとしている。それがふっか自身の存在や優しさを全て否定してしまっているような気がした。

「ふっか……ごめんっ……」

それでも私はふっかのそばを離れることが出来なかった。濡れているのにものすごく、彼の胸が温かくて。

「……泣いてる原因は俺じゃ解決できないんだろ」

そんな一言が聞こえてきた時。
冷たい布を纏った腕が私をぎゅっと閉じ込めた。

でも冷たかったのは一瞬に思えて、彼に包まれた私が感じたのはさっきよりもずっと温かい体温だった。ずっとずっと探していた、求めていたものがそこにある気がした。

「でもさ、泣いてんのを慰めてあげたい気持ちは誰にも負ける気がしないんだよ。お前がまた笑うまでずっとこうしてやりたいんだよ。ごめんなんて言われたくねぇの。俺はAが泣いてんの見たくない。それも、誰かを思って泣いてんなんて…耐えられねぇよ……」

苦しいくらいに力強く、そして彼自身が泣きそうな声を発しながら私を抱きしめている。その姿はさっきの私のように、必死に縋っているようにも見えた。