時を超えて、私の涙を拭う手は。 (ページ24)

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「動けるか？とりあえず体拭いて着替えてきな」

「ふっか…ごめん…」

「俺のことはいいから、ほら」

部屋に入った私たち。少し玄関に座り込んで呼吸が落ち着いた頃にふっかが私を部屋の中に送り出した。

不思議とさっきのような体の重さはなくなっていて、全身着替えてからタオルを持ってふっかの元へ急ぐ。

「気休めだけど…」

「ありがと」

「なんであそこにいたの」

「……阿部ちゃんから連絡来たんだよ」

差し出したタオルで頭をガシガシと拭きながら言う。目の前のびしょぬれなふっかと、私の分まで今働いてくれてるであろう阿部ちゃんに申し訳なさが募る。

「ごめん、こんな雨の中」

「それは別にいいけど。俺が来たくて来たんだし」

「……上がる？」

「こんなびしょびしょで人ん家上がれねぇよ。笑」

彼は玄関を動こうとしなかった。私が男なら服を貸してあげたりできたんだろうけど、あいにく意外と背が高いふっかに貸せるものなんて無く。

「洗って返す」

「いや…いいよそんな」

手を差し出すと少しだけ迷ってタオルを返した。湿ったタオルはいくらかの水分を拭き取ったんだろうけど、それでもふっかの服は乾くことなんてない。

「……ごめん」

わざわざ来てくれたことに対して。びしょ濡れなのに何もできないことに対して。とにかく色々申し訳なくなって、私は謝ることしかできなかった。

「倒れたんだろ？とりあえず風呂入ってあったかくして寝な、食べれるなら飯も食えよ。じゃあな」

そんな私に、何を聞くわけでもなくそう言って玄関を出ようとするふっか。扉を開けると聞こえる強い雨の音。

「ふっかっ……あ……」

私は外に出ようとした彼のパーカーを掴んでいた。気が付いたら身体が動いていた。扉の隙間から見える土砂降りの雨の中に、彼を送り出すのがなぜか嫌だったのだ。

雨に打たれてほしくなかった。

「ご、ごめん」

慌ててその手を離して、自分は何をしているんだと俯く。玄関には私達の服から滴った雨水で水溜りが出来ていた。さっき道端で、崩れ落ちた私をぴしゃんと音を立てながら受け止めた水溜りを思い出す。

今もどこかで私が返事を待っている彼の身体は雨に打たれているのだろうか。水溜りに沈んではいないだろうか。

そして私はなぜふっかに、その見たこともない姿を重ねてしまったのだろうか。

「……ごめんっ」

拭いたはずなのに、私の頬はまた濡れていた。