時を超えて、私の涙を拭う手は。 (ページ19)

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「阿部ちゃんの言う通り何か変な事に巻き込まれんのも怖いし、ただその前にAが傷つくだけのことを今してるんだったら俺はそれを辞めさせたい。何が起こってんの？教えてよ」

ふっかの声は聞いた事ないくらいに優しくて温かく感じた。今日のふっかはどこか変。でもなぜか私はそのふっかの接し方にどんどん吸い込まれていくような感覚で。

「……好きな人がいるの…でも、でもっ……」

気がついたら言葉を溢していた。
彼の突然の優しさに覆われて、嘘みたいにぽろぽろと気持ちが溢れてくる。

「その人とは話せても会えないの…遠い場所にいる……これからもずっと会えない……それが辛い、悲しくてたまらないっ……」

遠すぎる。
100年という歳月。

手紙はその100年を越えられるのに
私自身は越えられない。

「……その人はどこにいるの、何で会えないの」

「いないから…」

「いない？」

「存在しないから…っ」

「……亡くなった人？」

「違う、いるの……でも…いないの……」

ただ、この出来事を事細かく説明することなんてできない。私自身だって何が起こってるのか分からないんだから。

手紙が届いて、その返事を机に置いておくと翌朝には消えている。そして3日後にまた返事が届く。

私が文通をしているのはこの時代にはいない人。

私が恋をしているのは
遥か昔、100年前の大正時代に生きる

姿も知らない"リョウくん"なんだ。

「これだけ教えて。危険なことはしてない？」

「してない…」

「ほんとに？」

目線を合わせられない中でもしっかりと頷くと、ふっかはその私の頬にそっと触れるように涙を拭った。

突然の事にびっくりして顔を上げると、目の前のふっかはものすごく苦しそうに顔を歪めていて。

「ふっか…？」

今日だけでどれだけ彼の見たことない姿を見ただろうか。こんなに辛そうで、感情を露わにしているふっかを見たのは初めてだ。

「分かんねぇけど…こんな事気安く言っちゃいけないのかもしんないけど…」

手をそっと離したふっか。
そして今度は彼が下を向く。

「会えるよ。そんなに、お前が想ってんなら」

ものすごく苦しそうな声だった。
絞り出すような、今にも消えてしまいそうな声で。

「だから泣くなよ。その人も泣いてるAなんか見たくないだろ？」

でもそれはその一言だけで。次に発した言葉ははっきりしていた。俯いていた顔を上げて私を見たふっかは笑っていた。