時を超えて、私の涙を拭う手は。 (ページ17)

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「珍しく寝る気満々じゃん」

「……いった」

席で突っ伏していた私の頭を何かでぺしっと叩いた。ゆっくりと顔を上げるとそこにはいつものあいつが。軽く睨んでやるとヘラヘラして「うお、怖」なんて。黙れ。

「なに、寝不足？」

「ん」

また顔を伏せた。寝不足なわけではなさそうだけど色々悟られたくなかったのでそういう事にした。周りのガヤガヤが一旦静かになって、教授が入ってきたのを察する。

「始まるぞ」

いつもはそっちが寝てるくせに。頭をポールペンか何かで突いてきたふっかに何も反応することなく私は無視を決め込んだ。

教授の呪文みたいな言葉を聞き流しながらただ何も考えずに目を瞑っていた。ふっかも観念したのかちょっかいをかけてくることはなく。私はノートも取らず、一回も顔を上げることもなくこの授業を終えた。

「おーい、終わったぞー」

また頭をペンでツンツンとされた。ゆっくり起き上がると周りの明るさで目がしょぼしょぼする。

「良く寝れましたか」

「……おかげさまで」

「そりゃ良かった」

ふっかはいつも通りに荷物を持って立ち上がる。いつもなら飯行くぞ！って連行されるか、バイトだからって断って不貞腐れるかのどちらかだ。

「行こ」

「今日は無理」

「バイト？阿部ちゃんから休み報告受けてるけど」

「でも無理」

「何で」

「お金ない」

「誰も飯行こなんて言ってないじゃん」

いつもとは違う言葉に思わずふっかの方を見た。すると、彼の表情はいつもの余裕そうなどこかムカつくものじゃなかった。何だか寂しげな、でもどこか優しい雰囲気を感じるような。

「ノート、写せよ」

「え…？」

「今日割と重要なとこだったらしいよ、確かにこれ聞いてなかったらヤバいなって思ったよ。2階行こ」

ふっかはそう言ってまだ座ったままだった私の頭をくしゃっと撫でた。そしてそのまま教室の出口に向かって歩いてく。私はふっかが1時間分の話をちゃんと聞いてノートを取っていた驚きと、授業の初めに叩かれた時とは違う優しいふっかの手の感覚でしばらくぼーっとしていた。

ハッとしたときにはもうふっかの姿はなく、私は急いで荷物をまとめて2階の自習スペースへと向かう。階段を小走りで降りてふっかに追いついた時、彼は振り返って少し困ったように優しく笑ったのだった。