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「Aー、賄い貰ってくるけど食べるー?」
「あ、うん。ありがとう」
休憩に入ってエプロンを取る。座って一息ついて携帯をいじっていると同じく休憩に入ったらしい阿部ちゃんが入り口からひょこっと顔をのぞかせた。
そんな彼がキッチンに向かうのを見送ってからテーブルに置いてあったシフト表に目を向ける。自分の名前の隣にある“阿部亮平”の文字を頭の中で読んでため息をつく。
「リョウ……」
全く関係ないんだけど。しょっちゅう顔を合わせる同級生に亮平なんて人がいるから。私はその文字を見て勝手に“リョウくん”の事を考えてしまうようになっていた。
「はい」
「あ…ありがと」
「なんかずっとぼーっとしてるけど、大丈夫?」
君のせいだよ、なんて言えない。というか決して阿部ちゃんのせいではないのだ。
「そうかな」
「今日暇だから店長に言えば帰らせてくれるかもよ」
「別に体調悪いとかじゃないし」
パスタをくるくると巻きながら今度は心配そうな顔を私に向ける。
「冷めるよ」
「あ、うん」
「ほらやっぱなんか変」
同じものが目の前にあるのに私は手を付けずにシフト表をぼーっと眺めていたらしい。いつかのようにそれをひょいっと取った阿部ちゃんは自分もパスタを食べる手を止めた。
「悩み事?それとも体調悪い?」
「……体調は悪くないよ」
「じゃあ前者だ、どした」
阿部ちゃんが真っすぐに私を見てくる。ちらっと見ただけなのにばっちり目が合ってしまって誤魔化せないなとため息をついた。
「どうしたんだろうね」
「それも分かってないの?」
「……分かってるけど、解決策が一生出てこない気がして」
「誰かに相談すれば分かることかもよ?」
「分かんないよ、絶対」
分かるはずがない。
こんな経験をした人はきっと私しかいないのだから。
「俺にとは言わないけど、話すだけ話してみたらいいのに」
「悩み事を相談するなら阿部ちゃんだなぁとはずっと思ってるけど」
「目の前にいるよ」
それは本心だ。高校の時から彼は親身で、進路に迷った時や他クラスの人に告白されてしまった時など何度か相談相手になってくれた。ねぇどうやって断ればいい?なんて変な相談でさえちゃんと答えてくれたんだから。
でも
姿を見たこともない100年前の人に
恋心かもしれないものを抱いてしまい
どうすればいいのか分からない
なんて相談には阿部ちゃんだって答えられないだろう。
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作者名:ぽぷら | 作成日時:2022年1月28日 16時