音と笑顔の魔法使い

・ ページ40

・


「あ、あれも乗りたい」

「アクアトピア？」

「ここら辺くるといっつも楽しそうだなーって思うんだよね」

「涼しそうだよね、これ終わったらいこ？」

「うん、うわぁゲストって楽しいなぁ」


運良く割と早めのファストパスが取れた私たちはスタンバイの列に並んでいた。見た感じ阿部ちゃんはいないから中にいるか今日はお休みかな。練習でセリフを言っていたのは何回も見たけどちゃんとプレショーをしている姿は見たことない。


「お、もうすぐじゃん。ワクワクする〜！」


列が進んで建物内に入るところ。私もワクワクな気持ちでいっぱいだ。隣でキラキラした目で周りを見渡す佐久間くんに、何だか私まで嬉しくなった。


《お〜い、どうなんてんのかなぁ〜？乗客はまだ？早くしてくれよ〜》

《大人しく待ちなさいキャプテンデイビス》


ついに私たちのスタンバイが始まり、プレショーのアナウンスが始まった。普段外にいてあまりアトラクションの内部までは来ない私は近未来的なセットを見るだけでも楽しい。
　

《プレフライトクルー、ストームライダーの発信準備が最終段階に入りました。ミッションに説明を開始してください。》


『ラジャー、ベース！』


研究員さんがセットに上ってくる。その姿を見たときに私は思わず声をあげた。



「阿部ちゃんだ…！」



初めて見る、彼のプレショーが始まる。



「それではお待たせいたしました。みなさんこーんにちはー！」


こーんにちはー！とゲストが元気よく返す。両手を広げて少し裏返り気味の声でニコニコしながら挨拶をした阿部ちゃんは完璧に“研究員アベさん”になっていた。


「ストームライダーへようこそ！私は研究員のアベです！ここ気象コントロールセンターではある特定の気象現象の研究、予知、そしてコントロールをしています！」


彼は活き活きと表情豊かにセリフを言い続ける。誰もが夢中でその声に聞き入っていて、ワクワクの気持ちを躍らせている。今こうやってゲストを楽しませている同僚を見て誇らしいような嬉しいような気持ちになった。


「すごいね、かっこいいね」

「うん、すごくかっこいい」


佐久間くんもこそっと笑顔でそう言う。人気研究員らしいアベさん。本人も凄く楽しそうにアトラクションの雰囲気に入り込んでいるようだった。

流石に見えないかな〜と思いつつちょこちょこ手を振っているとこちらを見たときに目が合って、お！という顔を一瞬見せてからにっこり笑ってくれた。

・→←ゲスト

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す