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(聞こえる？)

「あ、聞こえた」


また私に目線を戻したと思うと聞こえてきたのはその阿部さんの声。


「あー！そういうことか！」


彼は1人で納得したらしい。何に疑問を持って何が解決したのか私にはさっぱりなんだけど、私でもそうなら多分皆さんははちんぷんかんぷんだろう。


「何が起こってんの」


渡辺さんがお寿司をもぐもぐとしながら阿部さんを見る。



「俺が"聞いてない“状態だとAちゃん聞こえない！俺と違ってずっと聞こえてる状態なんだなってのは察してたけどこうしたら聞こえないのね！」

「待って待って、混乱」

「同じく」



同じく。
聞いてないだとか聞こえないだとか聞こえてるだとか同じようで違う言葉が続いて早口言葉みたいだった。

佐久間さんと渡辺さんと同じくみなさんもよく分かってない顔をしている。多分阿部さんしか分かってない。そんな周りと私の様子を見て阿部さんがやっと説明をし始めた。



「えっとね、まず俺とAちゃんは同じく心が読めるんだけど一つ違う所がある。簡単に言うと、俺は"読める"でAちゃんは"聞こえる"なんだよね」

「同じじゃないの？」



深澤さんがピザを頬張りながら問う。



「Aちゃんはさ、何もしなくても周りの心の声が勝手に聞こえてくるでしょ？」

「はい」

「でも俺は違うのよ」



阿部さんは落ち着いた様子で、また私と目を合わせると少し真剣な表情で話し始めた。



「これはイメージというか感覚なんだけど、俺は自分の中にスイッチがあるような感じでそれをオンにすると心が読めるの。つまりオフにもできるわけ、聞こえない状態にもできるの」

「えっ…そんなことができるんですか…」

「うん、だから普段はオフってる。オンにしないとみんなの心は分からないからつまり普通の人と同じ状態になる。これはみんなも知ってる事なんだけど」


あぁ、だからさっき渡辺さんに読みたくなきゃ読まなきゃいいって言われたのか。ここの皆さんはその切り替えができるもんだと思ってる。



「で、話はここからで。そのオフってる状態で話しかけるとAちゃんには聞こえなかった。勝手に流れてくるはずがその状態の俺の声だけは聞こえない」

「阿部が周りの声を聞けないし阿部自身の声も届かないってことか」



ずっと黙って様子を見ていた岩本さんが声を上げた。その分かりやすい一言で周りも理解し始めたようで、眉間のしわが無くなっていくのが見えた。

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