小説の中 ymmt ページ23
「...今度は何の本を読んでるの?」
「...堕落論(ダラクロン)、坂口安吾(サカグチアンゴ)のね」
僕の彼女、夏穂さんは読書家だ。
家に行けば広がるのは大きな本棚とそれに収まりきれなくなった本が積み上げられている光景。
そればっかりが目に焼き付いている
「あれ?前は何の本だっけ?」
「人間失格...太宰治、その前は天衣無縫(テンイムホウ)、織田作之助(オダサクノスケ)」
「そうだったね、」
本に集中している時の夏穂さんには何を言っても単調な口振りで帰ってくる。
それ程、本が好きな彼女だった。
「...次は何の本を買うの?」
「ロシアの文豪...ドストエフスキーの罪と罰。後は未定」
「国を跨ぐとは...本当に本が好きだね」
そういえば、彼女はここまで本が好きだったっけ?
...彼女と最後に会ったのはかなり前だったから記憶が曖昧なだけ。きっと、
「...どの本なら手を付けても良いの?」
「そこの本棚の隣に積み上げてる本なら良いよ」
「ありがと」
少し埃が被っていたからそれを手で払い除けて、1番上に積まれている本を手に取る。
題名は読めない
作者も覚えてない
とにかくページを開くことにした。
そこにはたった一言
「現実に戻れ」
...知ってるよ。
ここは僕が「今」書いてる本の中。
彼女はとっくに死んでしまった。
僕はそれを忘れないように自分で本を書いているだけだから。
今までの思い出を忘れない為に
でも、記憶が曖昧で良く書けない。
...ねぇ、
本みたいに凄いことが起こって
帰って来てよ
小説の中に fin
trick or treat HappyHalloween! all→←マカロンで紡ぐ恋 tom
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作者名:もも | 作成日時:2022年8月9日 23時