甘い一瞬に騙されて

本日のデレは終了致しました ページ9

私の恋人、斎藤さんはとってもドライだ。
｢34のおじさんが8つも年下の彼女にベッタベタだったら気持ち悪いでしょ。｣と言うけれど、それにしてもドライ。

外で手は繋がないし、滅多に甘えてこない。
わたしが甘えたりした時は受け止めてくれるけど、斎藤さんからは甘えられたことない。
もっと素な斎藤さんなみたいな〜。ま、今のが十分素なのかもしれないけど。


｢今日はうちで映画でも見よっか。｣という斎藤さんの提案で、一緒に斎藤さん家の近所のコンビニで買い出しをしていくことに。

｢Aちゃん何飲む？｣
斎藤さんの右手にはビールの500ml缶が握られている。カゴの中には既に2本入っていた。

｢斎藤さん、全部飲むんですか？｣
｢Aちゃんも飲むと思ったけど違う？｣
ニコっと爽やかな笑顔を向けられる。私は1本全部飲みきれないしきっと残りは全部斎藤さんが飲むんだろうなあ。

｢あれ？A？｣
突然後ろから呼ばれ、振り返る。背後にはいかにもスポーツしてます！って感じの体つきの爽やか系男子が立っていた。

｢やっぱりAだ！覚えてる？｣
｢……颯人？｣
｢久しぶり！卒業ぶりじゃね？｣
｢ほんとだね！びっくりしたー！颯人かわってないねぇ。｣

誰？と小声で聞いてくる斎藤さんに｢高校の同級生です！｣と紹介した。
くしゃっと無邪気に笑う颯人は高校の時から全然変わっていない。

｢Aも相変わらずだけど綺麗になったな。
あ、彼氏さんすみませんお買い物中に！
じゃあまたな！｣

颯人ー！と誰かに呼ばれ、颯人はささっと挨拶して言ってしまった。

｢斎藤さん、お待たせしました。他にもなにか買いますか？｣
｢……ううん、行こ。｣
あれ？明らかに斎藤さんの顔が曇っている。いつもなら笑ってくれるはずなのに。

家に向かう途中も上の空で、たまにちらっとわたしの顔をみたりしていて落ち着かない様子だ。

……わたし何かしたかな？






｢Aちゃん、ここ。｣

買ってきたものをテーブルに並べ、さあ映画を見始めよう！と言う時に斎藤さんは驚きの行動に出た。

自分が座っている足の間をぽんぽん、とたたく。
｢え？｣｢ここ、おいで。｣

今まで家に呼ばれて映画やゲームをしたことは何回もあるけど、そこにおいでとされたことは1度もない。
｢斎藤さん？｣
｢ここ来て、はやく。｣

明らかに様子がおかしい。けどここで言及しても変な空気になるだけだし……

｢お、じゃまします……｣

斎藤さんの足の間にちょこんと座る。

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