甘い一瞬に騙されて

ならず者の恋愛事情(tbc)【学生】 ページ13

｢今まで本気の恋ってした事あるだろうか。｣
突然田淵がぼそり、と呟いた。

放課後2人っきりしかいない教室で、まして隣の席に座ってるんだからいやでも聞こえてくる。

｢どしたの田淵。｣
｢いや、今まで恋愛の歌詞を書いてきたけれど俺のそれは妄想というか、想像の世界で書き続けていたりしたわけで。
実際の恋愛の歌詞を書いたことがない事に気がついた。｣

田淵はバンドのベースをしているらしい。しかもそのバンドの作詞作曲もしているみたいで、よく授業中もノートにペンを走らせている。(板書ではなく。)

田淵のバンドのライブは2回ほど見に行ったことあるけど耳に残る歌詞を耳に残る声のボーカルが歌っている。

たしか歌ってたのは隣のクラスの斎藤宏介だっけ？
まあ今はその話を置いといて本題に戻ろう。

｢田淵、恋愛したことないの？｣
その問いに肩をぴくり、とさせる。
その動きは犬が耳をピクっとさせる動きに近い。

｢好きな人もいたし、なんなら付き合ったこともある。けれど、その経験から果たして曲ができるのかどうか……。｣

大きな目をキョロキョロとさせながらううーん、唸らせる。

普段変わり者で有名だけど、よく見ると整った顔してるんだよなぁ。
しかも考え方は気難しいけどそこら辺の同級生よりもちゃんとしている。
恋愛かどうかは分からないけど、私は田淵が好きだなぁと思った。

｢じゃあ、私と恋愛する？｣
するりと口からすべった言葉に自分でも驚いた。
それ以上に田淵の方が驚いている。まあ、そうだわなぁ。

｢ごめん、ちょっとふざけすぎ｣｢いいな、それ。｣

私が言い終わる前に田淵がまさかの肯定してきた。
｢Aさんのことは前から気になっていたし、Aさんは俺を弄ぶようなことしなさそう。｣

いいぞいいぞ、と謎の相打ちを打って田淵は立ち上がった。
｢明日ちゃんと告白するから待ってて欲しい。じゃあ明日！｣

そう言って荷物を取って教室を出ていってしまった田淵。残された私は1人高まる心拍数と明日への期待と緊張で動けなくなってしまった。


(いい恋愛が出来そうだから恋愛の歌詞かけそう。)
(ちょっとまって、たぶちどういうこと？)
(宏介、深く聞いたら負けだよ。)


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田淵には恋愛に不器用でいて欲しいし、なんならちょっと強引なところとかあって欲しい。

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