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『ふう……』


アラームに耳打ちされて目を覚ます。ふとiPhoneのロック画面を見れば2月も終わりに近づいている。

まだまだ毛布は手放せないけれど、寒さが和らいで少し暖かくなってきただろうか。



『よいしょっと!』


お腹が重くもう何ヶ月も仰向けで寝ていない。就寝には抱き枕が欠かせない。でも痩せていた頃を思い出せないほどの膨らみは1ヶ月も経たないうちに消える。

後ろから巻き付かれた長い腕を慎重にほどいてベッドを出る。今日も任務成功だ。

衣類を持って洗面台まで歩き、鏡を見る。

歯磨きをし、顔を洗ってスキンケアを施す。髪の毛は軽く水で濡らし、くしで解いてドライヤーで軽く温める。全てを終えたら前開きのパシャマのボタンを1つひとつ取る。キャミソールを捲ると、妊婦帯に支えられたまん丸なお腹が露わになった。



『妊娠線できてない、よし』


正中線こそできたものの妊娠線による皮膚の断裂はできなかった。悪阻が落ち着いてからオイルやクリームで一生懸命マッサージをした。おかげで今もつるつるのお腹を保っている。

鏡に映る自分にカメラを構える。



『今日から正産期だね。ママは覚悟できたよ。いつでも待ってるよ?』


今日から37週目だ。これから最高3月が終わるまでに確実に赤ちゃんが生まれる。約1ヶ月間、緊張と楽しみでいっぱいだ。下着やパジャマを整える。



『今日も1日、』


頑張るぞ、と気合いを入れようとした時だった。



「頑張るぞー!」


『……ねえ!』


鏡を覗く彼がいたずらっ子な笑みを浮かべている。中へはいるや否や、後ろから抱きついてお腹に触れた。



「隙が多いんだよなあ、Aは」


『声かけてくれたらいいのに……』


「写真撮ってたんだから邪魔できないでしょ」


『最初から見とるじゃん……』


「腕離したとこで起きたけどね」


寝起きがいいのは彼の取り柄でもある。本当なら声をかけようとする所を気配をなくし、静かにモーニングルーティンを見守っていた。その茶目っ気が可愛い。



「今日から1ヶ月は酒飲まないように気をつけないとなあ」


『なんで?』


亮くんは優しく微笑んでしゃがむ。



「赤ちゃん、もうすぐ生まれてくるでしょ? いつ陣痛くるか分からんのにお酒飲んでたらさ、車出せないじゃん」


父親としての自覚を兼ね備えた穏やかな笑みは心も体も暖かく包み込んだ。

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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2021年3月11日 1時

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