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あなたと出会って酸いも甘いも、苦いも辛いも味わった。
『28……、おばさんだ』
「じゃあ俺はおじさんなのか」
日付が変わる10分前、27歳最後の時間を2人で過ごす。同じ誕生日の私達は同時に年を取る。ただ生年月日が同じだっただけだ。でも私達は運命を感じた。
初めて話したのが高校2年になったばかりの頃だったから、もう10年以上も付き合いがある。
『ふう……』
「大丈夫? 辛いんじゃない?」
『大丈夫』
付き合ったのが20歳になって1ヶ月経った夏だ。よく晴れた日にひまわり畑に連れられ、人気のない場所で突然跪いたと思ったら亮くんに告げられた。
“Aちゃんが大好きです。付き合ってください”
長年の片思いが叶った。夢なんじゃないか、と現実を疑った。恥ずかしくて嬉しい。全ての苦労が吹っ飛んで返事もしないまま、亮くんをギュッと抱き締めた。
“私も、大好き!”
亮くんとのお付き合いは楽しいことばかりだった。
一緒に海やプール、遊園地へ遊びに行ったり、映画を見に行ったり。桜の季節には2人でお花見ピクニックにも行った。亮くんに少しでも喜んでほしくて苦手だった料理も頑張って克服した。
『お腹、動いてる……』
「本当に? 触ってもいい?」
付き合っていく中で朝陽の妊娠が発覚した。喜びよりも困惑が勝り、一時は中絶も考えていた。
でもどんなに体調が悪くても新しい命はすくすく育っている。何も食べれず点滴やサプリメントしか摂取できなくても、赤ちゃんは元気に大きくなっている。シングルマザーでいい。私はこの子を育ててみせる。
少しずつ膨らんでいくお腹を撫でながら、赤ちゃんとの未来に胸を弾ませた。亮くんとこの喜びを味わいたかった、と一抹の後悔を抱えて。
「……分からん」
『そんなもんだよ。まだ5ヶ月だもん』
「俺も胎動感じたいよ……」
今私のお腹には2人目の赤ちゃんがいる。妊娠は嬉しかったけど朝陽の時に重い妊娠悪阻があったから、もしかしたら……、と不安だった。結局今回も妊娠悪阻の診断が下された。体重は減り、点滴に幾度となく通った。それでも実家や義実家、亮くんのおかげで無理なく過ごせた。
『あ、日付変わった』
午前0時。28歳になった。28歳は2人目を産む大仕事が待っている。家族が、亮くんが笑顔で過ごせますように。私達は手を取り合い、微笑んだ。
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2021年3月11日 1時