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今日俺の仕事が終わったら2人で家飲みをしよう、とAと約束をした。酒の肴は俺が買うからAには酒を買ってきてほしい。そういう風に話し合いは進んだ。
「俺もこれ飲んでいい?」
カウンターにはシングルグレーンのウイスキーが立っている。Aは可愛い顔をしてハイボールを好む。その中でも特に“知多”をソーダで割って美味しそうに飲んでいた。
“和食に合うんだよ、これ”
俺も飲んでみたい。Aと同じ味を共有してみたい。でもボトルを手に取ればすぐに奪われる。
『ダメでーす、亮くんはこれ!』
代わりに手渡されたのはアルコール3%のチューハイだ。紫色のパッケージに葡萄のイラストが描かれたほろよいを。
「3%……?」
『そう。亮くんは3%だけ』
「なんで?」
やっと飲めると思ったのにまたチューハイで甘んじるのか。Aと2人だとアルコール度数は強くても5%までしか許可されない。俺のアルコール事情に厳しすぎやしないだろうか。
『お酒弱いやん。お酒弱いのは遺伝だから飲ませられない』
ぐうの音も出なかった。俺はしばゆーと同じくらい酒に弱い。見た目のせいで強そうに見られるけれど、誰よりも早く酔いが回る。
気づけばトイレで吐いて寝ていた、なんて失敗も数多くやらかしてきた。
『私亮くんの介護できんよ?』
「Aが叩き起こしてくれたら介護の必要がない」
『起きたことないでしょ!』
Aもそんな俺を何度も見てきた。介抱させたこともある。
Aが言うには人が変わったみたいに甘え、Aに対しては押し倒すように抱き着く。甘さが増した俺には慣れない。酔っ払った俺を相手するのは恥ずかしい、と頬を赤らめていた。
何度失敗を繰り返そうが酒が飲みたい。弱いなりに酒が好きだし、Aが愛するウイスキーを味わってみたい。
『体のためだよ。私だって亮くんと飲む時は加減するげえ、無理しないで?』
気を使ってくれる優しい心に良心が痛む。ノリで大量に飲まされて吐いている時、Aはいつも背中を撫でてくれる。気持ちはありがたい。でも1杯くらいなら吐かずに飲めると思う。
『先にお風呂行ってきていい?』
「いいよ、行っておいで?」
Aが浴室の方へ消えていく。俺はこちらへ戻って来ないのを確認し、カウンターで鎮座するウイスキーを開けた。
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2021年3月11日 1時