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イベントの第2部が終わり、俺と虫さんは急いで所定の会議室へ向かう。
「虫さんと夢丸は何を急いどるだ?」
「僕達の共通の知り合いが来てるんだよね!」
途中で俊光に引き止められて焦ったけど、虫さんが落ち着いてフォローしてくれた。
「その子とんでもなく可愛くて、夢丸緊張しちゃってるんだよ。第3部まで残ってくれるみたいだし、それまで僕と夢丸がお相手しなきゃでしょ?」
「……確かに」
納得行かなさそうに分かった、と吐き捨てた俊光は亮くんの向かい側に座り、差し入れのドーナツを開いた。
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「遅くなってごめんね!」
中に入るとAはマイペースにお弁当を頬張っていた。東海オンエアにいた時から彼女はマイペースを貫き、撮影中であってもおやつを食べて皆に突っ込まれていた。
「すげえ美味そうに食うやん」
『ん? 美味しいもん。これからは頑張って食べんといかんし』
そっか、もうAはお母さんとしての自覚を完全に持っているのか。
もしこの場に亮くんがいたら、1人だけ先に行かないで、と焦っていただろう。いや、ちゃんと食べてくれて安心していたかもしれない。
「……ねえ、A」
『ん?』
「お腹の子って、亮くんの……?」
浮気をしていないが妊娠はしている。第2部の公演中、ずっと考えていた。Aのお腹で芽生えた命は最愛の人との子供だった。ピタッと箸を止め、そうだよ、と苦笑いをする。
「そっか……」
言葉にならない。
「体調不良っていうのは?」
『つわり。私つわりが激しくて安城に戻ってから入院してた』
壮絶な体験を何事もなかったかのように話してのけたAは想像以上に逞しい。一緒に育ったはずなのに数歩先を歩いているような感覚に陥る。
『今はもう大丈夫なんだけどね!』
「そっか」
Aの実家は高校時代に引っ越し、今は安城のどこにあるのか分かっていない。
「Aは1人で子供を育てるの?」
『……そのつもり』
でも自分で良ければAの助けになりたい。
「連絡先、教えてほしい」
『いいよ。ざわ先輩が持っとるげえ、あとで教えてもらって?』
「分かった」
『あと、今日の事は3人の秘密にしてほしい』
切なげな願いが痛々しく胸に刺さる。その表情は彼女が愛し、愛された長身の男と重なり、また悲しみを募らせた。
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マイタケ - すみません、誤字しました。写真→投稿です、、、 (2021年2月20日 22時) (レス) id: ae4c543280 (このIDを非表示/違反報告)
マイタケ - はじめまして。はじめてウラツクの写真で涙を流したのがこの作品です。これからも応援してます! (2021年2月20日 22時) (レス) id: ae4c543280 (このIDを非表示/違反報告)
あおやなぎ(プロフ) - しげさん» こちらこそ読んでくださってありがとうございます! 毎日コツコツ連載していきますので、楽しみにしていてください! (2021年2月3日 20時) (レス) id: 098b1a6f9b (このIDを非表示/違反報告)
しげ(プロフ) - はじめまして!楽しく、そしてドキドキしながらお話し拝見させて頂いております。続きが気になってドキドキしております!更新楽しみにしてます^_^応援してます! (2021年1月31日 1時) (レス) id: 8e9027bcbe (このIDを非表示/違反報告)
あおやなぎ(プロフ) - 明莉さん» 返信遅れて申し訳ございません! ありがとうございます、頑張ります(^^♪ (2021年1月27日 3時) (レス) id: 098b1a6f9b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あおやなぎ | 作成日時:2021年1月19日 20時