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「で、本題なんだが」
雅貴くんはやや言いづらそうな感じでその話題を出した。まあ、さっきので緊張感はなくなったよね。
「どうして段持ちだってことを言わなかったんだ? 何か理由があるんだろ?」
「まあ、うん。はい」
言ってみろ、と雅貴くんは続きを促した。
「最初は桐先のコーチに勧められて審査を受けたの。でも的前に出たばかりの頃だったし、どうせ受からないだろうと思ってたら、なんか、受かっちゃって……」
言い方が良くなさすぎるけど、結果的には今言った通りだ。
「次の段を受けられる時期になったら、すぐまた受けろって言われた。こんなのでほんとにいいのかなとは思ってたんだけど、申し込みとか、コーチがまとめてやってたから、断れなくて」
「それで、受けたら受かったって感じか」
「うん。コーチも私が段を取れば自分の実績になるからって、それで参段まで取って……ました」
私は段を取れて、コーチは指導力をアピール出来るから、お互いの利益だなんだと言われて、言われるがままに受けてきた。
実際はそのコーチよりも先輩や湊と愁、それから雅貴くんに教わっていたんだけど。
「話はわかった。とはいえ、それは別に教えてくれてもよかったんじゃないか?」
「……だって、"えっ、その射で参段?"とか思われたらやだし……」
「あのなあ、審査の先生方はちゃんと射型や学科の記述を見て判断してるんだぞ。それで受かったんだから、もっと自信を持て」
「それは、そうだけど。でも実力に見合わない気がして」
審査を受けたときも、同年代の人なんてあまりいなかったし、なんだか場違いな気がしていたのだ。学生はたくさんいたけど高校生や大学生ばかりだった。
「意外と自己評価が低いんだな」
「低くないよ。……全部中途半端だもん」
「そうは見えないけどな。まあ、そう思うことで練習のモチベーションが保てるならいいと思うが」
そう言って雅貴くんはみかんをつまんだ。
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作者名:三宮 | 作者ホームページ:https://alicex.jp/riiiiidoooosog7/
作成日時:2023年4月1日 21時