虹色の小瓶《短編集 3》

母ならば ページ48

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新たに生まれた疑問や思いを巡らせて、考え込む僕の手をそっと包んだ優しいぬくもりにハッとする。


「ジミンさん」
「……父さんは意外と不器用だよね。あんな大変なこと、誰にも相談せずにたった一人でどうにかしようとして、それでもどうにかしちゃっただなんてさ」
「え？」
「……ううん、何でもない。
　誕生日祝ってくれるんならひと言「誕生日おめでとう」って言ってくれるだけでもいいのに。
　でも、こんな不器用なサプライズプレゼントも悪くないね」
「ふふっそうね……。ねえ……ジミンさん？」
「うん？」


潮風に乗って香ってくる優しくて甘い香り。軽く両手を広げて僕に一歩近づいて、肩に顎を乗せて腰に手を回す。
そんな彼女を僕は抱き留めた。

抱きしめられる強さや温かさは母と似ているようでどこか違う。けれど、まるで母のように僕を癒やしてくれるようで心地いい。

そして耳に届くその声も――。


「早く親子になれるといいですね」
「っ……」


Aさん、僕の不安がどうして分かったの？僕の心が見えているの？



「……そうだね」



貴女は知ってるんだね。全てじゃないにしろ、父さんから聞いたんだね。

貴女がそう言ってくれるなら頑張れるよ。





抱きしめた腕をそっと緩めて、広い海に目を向けた。


夕日が空と海面を赤く染め、海の向こうへと降りていこうとしている。
父さんが言ったとおり、見晴らしが良くて綺麗な海。


海が好きと言っていた母さんもこの海を見たんだろうか。

父さんに肩を抱かれながら夕日が沈むさまを見ていたんだろうか。


「綺麗……」
「……うん」


母さんも父さんに素直な感想を伝えて、はにかんだのだろうか。


母さんなら僕が尋ねれば教えてくれたはず。
僕の成長が綴られたアルバムを眺めて、幸せそうに笑っていた母さんなら。

父さんを一つも悪く言ったことのない母さんなら。

婚約指輪を『僕の次に大事なもの』だと言っていた母さんなら。


父さんが聞かせてくれるよりもっと素敵で、僕が羨むほど幸せに満ちた昔話を聞かせてくれたはずだったのに。


「……っ、ぐすっ……」


どうして母さんからもっと話を聞かなかったんだろう、僕は。



「ジミンさん？どうしたの？」
「んっ……海があんまり……綺麗で……っ」


止まらなくなった後悔のせいで涙腺が緩い。
みっともない泣き顔を見せたくなくて、Aさんから顔を反らし夕日が沈む海に向けた。

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