無色の枷 (ページ1)

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──────……

12月25日。クリスマス。

街に飾られた大きなクリスマスツリーの下には、数多の恋人達が集まっていた。

「……ハァ……ハァ…………」

ひしめき合う人混みの中で、男は鞄からある物を取り出そうとする。

「……ハァ……ハァ…………ｯ」

意を決して鞄の中のそれ(・・)を握りしめる。
取り出して使用したが最後……男はもう後戻りはできない。

─────……だがもう、どうでもいいのだ。

「…ハァ……ｯ…………！！」

「ちょっと…！！」

「！！」

突如、男の手に冷たくか細い手が重なった。
雪で冷えたのだろうか…その氷のような手はスッと離れると、男の持っていた物に手を伸ばした。

「これ…なに……？ガスボンベ…を、改造したやつ…？」

「……」

「動画で見たことある…！簡易的な火炎放射器でしょ…！」

「……よく知ってるね」

「うえぇ……当たった…。……えっと、なんかもう直感的に危険な気がして止めちゃったけど、こんなの取り出してお兄さん何しようとしてるわけ……」

男に声をかけた女は、その手に触れた物を自身の影で隠すようにして立つと、男に向き直った。
声のトーンを落として喋る感じを見ると、今すぐ周りにバラすつもりはないようだ。

「……火炎放射器だよ。…燃やすんだよ」

「え、なにを」

「あれ…」

そう言って男が指差した先には、大きなツリーが聳え立っている。

「…ツリー」

「……え、お兄さん海外の方？」

「なんで？」

「いや…海外にはツリー燃やす行事もあるって聞いたから……もしかして日本で勘違いして事件起こそうとしてんのかと……」

「そんなわけないでしょ。事件起こすつもりで燃やすの」

「なんでよ！」

「なんでって…そりゃぁ……」

男はジトリと周りのカップルを見つめながら言った。

「……リア充って…ムカつかない？」

「え」

「ほら、よくリア充爆ぜろって言葉使うじゃん？実際爆ぜたら気持ち良いのかなぁ…って」

「ちょ、ちょっと待って……。お兄さんまさかそんなノリで人生棒に振ろうとしてんの……？」

「ノリっていうか……まあ」

「ダメだよ！！！！」

「あ…」

女は男から物を取り上げると、自身の鞄におもむろに押し込んだ。

「これは没収します！！」