幸せにするのはあなたじゃない 1 # ページ9
your side
｢幸せになってね｣
私たちの最後の会話は、
そんな在り来りな別れの言葉だった。
当たり前になっていた2人での生活は8年間も続いていたとは思えないほど、あっさりと終わった。
こうなったきっかけは何だったのか、覚えていない。
いや、きっかけなど、
そんな明確なものはなかったのかもしれない。
お互いに忙しくなるにつれて、
2人で過ごす時間は徐々に減っていって。
｢もう別れよう｣
そんな時に告げられた。
｢なんで？｣
｢こんなの幸せじゃないだろ｣
｢そんなことないよ｣
｢…俺じゃ幸せに出来ない｣
嫌に重たそうなバッグにキャリーケース
積み上げられたダンボール
ああ、私の答えを聞く前から、もう決まっていたのだ。
ただ、決定稿を伝えただけ。
ただ、それだけだったのだ。
どんな言葉をかけようとも引き止められない。
｢……わかった……8年間ありがとう｣
｢…何にもしてあげられなくてごめんな｣
｢ううん、一緒に過ごせて幸せだったよ｣
だからこそ、あなたが何を思って、
この話を切り出したのかわからなかった。
初めて、
愛されていないのかもしれない。
そう思った。
確かに、明確な愛の言葉は付き合い始めたあの日以来
聞いたことはなかったけれど、それでも節々に感じる
不器用な優しさに愛情というも、いや、その言葉でしか
表すことの出来ないそれを感じていた。
何か決める時は必ず話し合って決めよう。
そんなルールを作ったのはあなたで、
一度も破ったことがないのもあなただった。
小さなことも、必ず話し合って、そうやって決めてきた。
それなのに、こんなにも大きなことなのに、
あなたは話し合うこともなく一人で考えて、
一人で結論を出してしまった。
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作者名：羽瑠 | 作成日時：2023年2月17日 23時
