愛の謳い方を知らぬ僕らは (ページ28)

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頷けば、目黒さんはまたふわりと笑って
悲しそうに目を細めた。

｢お父さんとお母さんはまだお仕事中かな？｣
｢…父さんはいないです。
母さんは…まだ働いている……と思います。｣
｢そっか、お母さん大変なんだね｣

深く息を吸い込む音が聞こえる。
歪んだ景色に真っ直ぐな目黒さんの瞳が映る。

｢康二くんの体には、たくさんの傷があるよね。
誰につけられたのかな？｣

『なんで私に迷惑ばかりかけるの！？あんたなんて』

母さんの声が響く。
可哀想な母さんの声が響く。

『康二だけはどこにも行かないで』

綺麗だけど、どこまでも弱い母さんの声が響く。

もう母さんを守ってあげられるのは僕しかいない。

首を振った僕に、目黒さんは悔しそうに唇を噛む。

｢お友達にされた？それとも…｣
''お母さん？''

指先までもが震えているのを感じる。
置き損ねたカップを持つ手がカタカタと音を立てる。

｢ちゃうんです…ただ転んだだけなんです｣

上げた口角
母さんに気持ち悪いと言われた笑顔でも、
母さんを守れるだろうか

｢…目黒、児相に相談されてたお宅だった｣
｢そっか…岩本くんありがとう｣
｢もっと早く対応出来ていればな…｣
｢……康二くん｣

真っ直ぐな瞳がこちらを見据える。

｢康二くんのお母さんは康二くんが守ってくれる。
じゃあ康二くんを守ってくれるのは誰なの？
痛いことも苦しいこともせずに守ってくれる人は誰なの？｣

…そんなの…そんなの…

｢僕たちは康二くんを守りたい。いや、絶対に守る。
だから、本当のことを教えてほしい｣
｢……本当に…守ってくれますか？｣

本当はずっと誰かに守ってもらいたかった。
大丈夫だよって抱きしめてもらいたかった。
当たり前のように愛されたかった。

｢守るよ｣

曇りのない瞳が眩しかった。

｢苦しい時は苦しいって言っていいし、助けてほしい時は
助けてって言っていいんだよ。絶対に俺らが助けるから｣
｢…………助けて｣
｢もう大丈夫だよ｣

いつの間にか雨は上がって、
雲の隙間から覗き込んだ太陽が世界を照らした。