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｢着替えられた？サイズも大丈夫そうだね｣
目黒さんはふわりと笑って、
僕のびしょ濡れの制服をヒョイっと持ち上げた。
｢雨に濡れちゃってるから、
洗濯して乾燥機にかけてもいいかな？｣
その言葉に僕はただ、目を丸くして小さく頷いた。
警察の人はそこまでしてくれるのだろうか。
母さんが日々、僕に言う警察の姿とは全く違くて。
ただ驚くことしか出来ない。
｢洗濯している間に話を聞きたいんだけどいいかな？｣
頷けば、ちょっと移動しようかなんて、
机を真ん中に向き合った席へと案内される。
｢はい、熱いから気をつけてね｣
岩本さんがコトリと机の上に置いてくれたカップからは
甘い匂いが溢れてきて。
とろりとした茶色が美味しそうだった。
｢…これ、なんですか？｣
｢ココアだよ｣
｢ココア？｣
｢うん、世界で1番美味しい飲み物。飲んでごらん｣
にこりと細めた瞳が優しくて一口、口付ければ
甘い香りが口いっぱいに広がった。
｢美味しいです｣
｢だろ｣
岩本さんはそう言って、少し寂しそうに笑った。
｢岩本くん、俺には？｣
｢お前は仕事中だろ笑｣
ここは暖かい世界だ。
暖かくて優しい世界だ。
｢じゃあお話しよっか。まず、名前を聞いてもいい？｣
｢…康二｣
｢こうじ？｣
｢…向井、康二…です｣
｢むかいこうじくんね。漢字も教えてもらえるかな？｣
｢……向かうに井戸の井。健康の康に、数字の二です｣
｢ありがとう。素敵な名前だね｣
サラサラと紙に記された字は、自分の名前なのに、
綺麗でスっとした目黒さんの字では全くの別物に見えた
｢じゃあ年齢を教えてね。今は何年生かな？｣
｢中学…一年生です｣
｢…中学一年生か。そっか… これから康二くんにとって
嫌なことを聞くかもしれない。もし、答えたくないことが
あれば答えなくてもいいからね｣
頷けば、目黒さんはまたふわりと笑って、
悲しそうに目を細めた。
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作者名：羽瑠 | 作成日時：2023年2月17日 23時
