雨上がり 1 × ページ26
kj side
濡れた服が肌に張りついている。
重くのしかかったそれは、
まるで別のものに変わってしまったようだ。
意志を持ち、僕をここへと張りつけようとする。
小さな路地の隅
しゃがみ込んだ制服姿の子どもに声をかける人などいなくて
見てはいけないものを見たかのように、
逸らされる瞳が酷く痛くて、諦めに近い溜息を吐いた。
閉じた瞳にも雫が落ちる。
｢どうしたの？｣
パラパラと雨を弾く音とかけられた声に瞼を上げれば、
不安げに顔を覗き込んでくるお兄さんの姿が揺れた視界に
薄らと映る。
｢お父さんかお母さんは？｣
張り付いた喉は震えなくて。
ただ、首を横に振ることしかできない。
｢ここじゃ寒いから、とりあえず移動しよっか。
ごめんね、抱き上げるよ｣
抱き上げられた体が、お兄さんの歩みに合わせて揺れて。
ようやく焦点のあった視界に胸元で光るエンブレムが映る
ああ、きっと母さんに怒られてしまう。
ズキズキと痛んだ頬に雨粒が当たって、
悲しさまでもが沸き立っていた。
｢岩本くん、ちょっと手伝ってくれない？｣
｢目黒？お前、巡回中じゃないのかよ、え？は？｣
岩本くんと呼ばれたお兄さんは抱き上げられた僕を見ると
一瞬慌てた顔をしたものの、すぐに奥の部屋からタオルを
幾つか取ってきて。
僕の頭にそれをふわっと乗せた。
それは、石鹸の香る真っ白なタオルだった。
｢奥の布団にタオル敷いたから寝かせてやって｣
｢ありがとう｣
僕を寝かせた目黒さんと岩本さんは
またバタバタと動き出して。
僕はただ、それを眺めていた。
｢体冷えちゃうからちょっと落ち着いたら着替えようか。
着替えここに置いとくからね。｣
枕元に置かれた着替えもふわりと石鹸の香りがした。
びしょびしょの服を脱いで、置かれた服を身に纏えば、
全身が石鹸の香りで包まれていくような気がした。
そのまま汚れた僕も綺麗になれればいいのに。
畳んだ真っ黒な制服は綺麗に畳んだはずなのに、
元の汚さは隠しようもない。
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作者名：羽瑠 | 作成日時：2023年2月17日 23時
