． 3 ページ17
ガチャリと鍵の開く乾いた音が響く。
ごくごく一般的な音なのに、
それが何故か寂しく苦しく感じた。
｢お邪魔します｣
7つの声が重なる。
静かな部屋に足音だけが響く。
扉の先に広がった世界には、
俺らの知らない阿部ちゃんがいた。
目黒と嬉しそうに微笑む阿部ちゃんや
お揃いのリングを煌めかせた2人の写真が
至る所に飾られている。
ソファーに置かれた見覚えのあるクリーム色のベストに
チェックのパジャマ
綺麗に2つずつ揃えられた食器
それらの全てが俺たちの知らなかった2人の関係を
否応なしに伝えてくる。
机の上に小さく置かれた2つは、
きっと写真のそれなんだろう。
｢…2人とも水臭いやん…教えてくれたって…いいやん…｣
酷く強がった声が響く。
｢…本当にね…お祝いしたかったのに…｣
同じように強がった俺の声は酷く震えていた。
｢阿部ちゃんは…この部屋で何を考えていたんだろうね｣
めめの面影がこんなにも残る部屋にただ1人取り残されて
何を思っていたんだろう
めめのリングの横に、薬指から外したそれを置いた時、
あなたはどんなことを考えていた？
めめの元へと帰ろうと決意を固めていた？
あんなに近くにいたのに、ずっと一緒に過ごしてきたのに
こんなにも俺は阿部ちゃんのことを知らなかったなんて
今更わかったって遅いなんて
そんなことに気付きたくなかった。
ねぇ阿部ちゃん
きっとずっと苦しかったよね。
寂しかったよね。
何にも気付いてあげられなくてごめんね。
1人で苦しませてごめんね。
親友なのに、ごめんね。
いつだったか阿部ちゃん言ってたよね
『海になりたい。海になれれば、
. どこでも好きなところに行けるのに』って
それならさ、海に溶けた阿部ちゃんは
もう好きなところに行けたってこと？
めめの元にも辿り着けたってこと？
そうならいいなぁ…
いつか俺らも海になって、そっちに行くから
それまで2人で笑って暮らしていてよ。
｢亮平｣
｢蓮｣
大好きな2人の声が聞こえた気がした。
｢…阿部ちゃん……またね｣
とぷりと海に解けた
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 59人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：羽瑠 | 作成日時：2023年2月17日 23時
