AM10:50 文庫/ライトノベル(2) ページ5
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「そういやお前、今バイト中じゃねーの?」
「そうだよ!たまたま配達で近くまで来たから、寄っていこうと思って。早く読みたかったし」
「ってことは、バイクなんだよな。この本どうやって持って帰るわけ?」
「……あっ」
「…バカだな…」
万札を握ったまま固まった宮田に心底呆れた目を向けてやると、途端に顔を歪ませて泣きそうになりながらガックリと項垂れた。
今持ち帰らないならお金は受け取れないから、差し出された万札は財布に逆戻り。
ピザ屋のバイクには私物を収納するスペースなんて無いだろうし、こんな大量の本、ハンドルに引っ掛けるわけにもいかない。
ちょっと考えればわかることなのに、それを考えないで行動するあたり、宮田らしいと言えばらしいけど…。
「仕事終わったらまた来ればいいだろ?」
「そんなぁ〜!休憩時間に読もうと思ってたのに!」
「焦らなくても本は逃げないんだから、諦めて仕事終わりに寄ってけよ。買ったばっかの本がピザ臭くなるよりマシだろ」
「…そう言われると…確かにそうかも…」
「だろ。じゃあそういうわけだから、お前も早く帰れ。ピザくせーから」
「キタミツひどい!」
片手で鼻を押さえながら追い払う仕草をしてやれば、宮田は鼻の穴を膨らませて怒ったふりをした。
でもすぐに眉を下げて微笑むと、「またあとで来るね」と言い残して、来た時とは別人のように重い足取りで帰って行った。
そんな宮田の尻ポケットでぷらぷらと揺れていた女の子の顔を思い出しながら、カウンターに残された本の山を背後の棚に戻した時、ふと気付く。
一番上の本の表紙には、あの宙釣りの女の子。
「…あいつ、今日は15時までって言ってたよな…」
注文した本が手元に届いたら、一刻も早くそのページを開きたい。
なんだかんだ言ったって、その気持ちは俺もよくわかるから。
「ったく、しょうがねーな…後で届けてやるかぁ」
俺の昼休憩の時間をずらしてもらえるように、あとで店長にお願いしよう。
本当は配達のサービスなんてやってないけど、今回だけ特別ってことで。バレたら絶対怒られるから、もちろん店にも内緒。
「配達料として、ピザの1枚くらい奢らせようかな」
表紙の女の子に賛同を求めるように呟いて、棚に戻しかけた本の山を店の紙袋に詰めていく。
特徴的な絵柄の、顔の半分はありそうなデカすぎる目には、宮田のニヤケ顔が映っているような気がした。
《with M story___fin.》
PM12:40 コミックス/少年誌→←AM10:50 文庫/ライトノベル
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作者名:いちはら | 作成日時:2015年12月20日 19時