赤いリボンをほどいたら (ページ35)

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赤いリボンをほどいたら(3) ページ35

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消灯時間が迫る塔の美しいグラデーションを、北山と並んで見上げる。

赤いマフラーに顔を埋める北山をちらりと見遣れば、気配に敏感な北山はすぐに気付いて、同じように俺を見上げて微笑んでくれた。

真っ黒な瞳の中でキラキラと反射する光は、まるでスノードームの中で踊る真っ白な雪みたいだ。

「…なぁ、藤ヶ谷」

「ん？」

「今ここにいる人たちの中に、俺たちのことを知ってる人はどれくらいいるのかな？」

「………」

「もしかしたらこの中に、今日のイベントで俺たちに会いに来てくれた子もいるかもしれないんだよな…」

いつの間にか、北山の瞳は塔ではなく、塔を見上げる人たちに向けられていた。

光に照らされる見物客の笑顔に、きっと今日のステージから見えた景色を重ねているんだろう。

その横顔は、もう何度も隣で見てきた姿と、同じ眼差しをしていたから。

「…そうだね。もしかしたら、いるかもしれない」

「だよな！なんか、そう思うと変な感じするなー」

くしゃりと皺の寄った笑顔を弾けさせた北山が、顔もわからないファンを想って、照れ臭そうに鼻をかく。

その無邪気な表情に、俺はもう一つの記憶を呼び起こされた。

あの夜、この腕に閉じ込め損ねた、蝶のような北山。

仕事から離れた場所で二人の時間を過ごしてもまだ、俺のことだけを考えてはくれないの？

仕事に熱い北山が好き。

仕事が大好きな北山が大好き。

そんな俺のことを、北山も好きなんでしょ？

互いの気持ちを知りながら繰り返してきた、ぬるま湯の中の甘い駆け引きは、もう今日でおしまいにするから。

最後の一歩を踏み出して、北山のその瞳も心も、俺だけで埋め尽くしたい。

「ねぇ、北山」

「ん？」

「ここにいる人たちは、もしかしたら俺たちのことを知ってるかもしれない。ファンの子だっているかもしれない」

「…うん」

「……でもさ、」

俺の微かな変化を敏感に感じ取った北山が、じっと俺の目を見つめてくる。

そんな、俺の心の奥を知ろうとする北山の強い瞳を見つめ返して、俺は言葉を紡いだ。

「今は…隣にいる俺のことだけを考えてほしいって思う俺は、わがままなのかな？」

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