PM17:40 料理/レシピ本(2) ページ14
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「あれ…横尾さん、その本…」
「あぁ、これ?」
ふと目線を下げると、横尾さんが手に持っていた本のタイトルが目に入った。
受験に役立つ参考書でも、当たりが多いと評判の過去問でもないそれを横尾さんが持っていることが意外だったから、ちょっとびっくり。
「横尾さん、料理するの?」
「俺、こう見えて料理得意なの」
「えーっ、そうなんだ!」
「意外だった?」
「うん、ちょっとだけ。あーでも、言われてみれば料理しそうかも……うん、似合う!」
「ははっ、それはどうも」
歯を見せて楽しそうに笑う横尾さんの表情に、今まで知らなかった新たな一面を見た気がして、何だか嬉しくなる。
横尾さんのことは、家庭教師のバイトをしてる年下の大学生ってことしか知らなかったから、料理が得意だなんて思ってもみなかったな。
改めて本を持つ手を見てみると、包丁が似合いそうな綺麗な手だな、なんてぼんやりと思った。
「あぁそうだ、そういえばみっちゃんに聞きたいことがあったんだ」
「俺に?」
「そう。実は来月俺と家庭教師仲間の奴らが受け持ってる生徒さんを集めて、クリスマスパーティーをしようってことになってさ。俺が料理の担当になったんだ」
「へぇ、すごいね!」
「ふふ、ありがとう。それで今、何を作ろうかなって考えてるんだけど…今時の中学生って、何が好きなのかわかんなくてさ。さっき料理本のコーナーも見てきたけど、結局決めきれなくて」
「…なるほど…」
横尾さんの話を聞きながら、俺は同時に頭の中でレシピ本コーナーのタイトルリストを呼び出していた。
これはまさしく、書店員としての腕の見せ所だな。
せっかく頼りにしてもらったんだから、横尾さんにも生徒さんにも喜んでもらえる一冊を探さなきゃ。
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作者名:いちはら | 作成日時:2015年12月20日 19時