答えは単純(3) ページ6
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「…ったく、なんでお前まで泣いてんだよ、北山」
「っ、ふじがや…!」
「覗き見とはいい趣味してんな」
その場に立ち尽くしたまま袖口で涙を拭っていると、俺の姿は見えていなかったはずの藤ヶ谷が、いつの間にか目の前に立っていた。
当たり前のように伸びてきた指に、濡れた目尻をするりと撫でられる。
呆れたような、困ったような、でも優しい目をした藤ヶ谷の顔を見上げたら、泣き止むどころか漫画みたいにぶわっと涙が溢れてきて、ますます藤ヶ谷を困らせてしまった。
「もー、そんなに泣くなって」
「ぅっ、だ、だって…!おれのこと、一生大切な人って…!」
「なに、それで泣いてんの?俺べつに北山のことだなんて一言も言ってないけど」
「えぇっ!?そんなぁ、ふじがやぁ…!」
「っくく、冗談だって」
いつ誰が来るかもわからないこんな場所で俺に笑いかける藤ヶ谷は、あんなにまっすぐな告白をされて、やっぱり少し浮かれているのかもしれない。
悪戯っ子みたいな顔で笑う藤ヶ谷と、それに合わせて楽しそうに上下する喉仏を恨めしく見上げる俺。
そんな俺の視線に気付いた藤ヶ谷は、今度はぞくっとするほど挑発的な目をして、ゆっくりと俺の頰に手を添えた。
「感動して泣いてる顔も悪くないけどさ…それだけじゃ困るんだよ」
「え…?」
「お前の気持ちはどうなんだよ。言っとくけど、俺と同じじゃなかったら許さないから」
「っ…!」
俺のことをじりじりと死角に追い詰めながら、おっかない顔して物騒なことを言う、目の前の恋人。
同じ気持ちじゃないわけがないのに、そんなわかりきったことを聞くなんて、藤ヶ谷は優しいようでやっぱり意地悪だ。
だけど…
優しいだけじゃない藤ヶ谷の一面を見せてもらえるのは俺だけなんだって、藤ヶ谷の「特別」は俺だけなんだって、心からそう思えるから。
くだらないことで悩んで、藤ヶ谷の愛情を疑うような真似はもうやめる。
俺は藤ヶ谷が好きで、藤ヶ谷も俺が好き。
結局、それさえわかってれば充分なんだ。
「俺の気持ちは、後でじっくり聞かせてやるからさ……早く俺らの家に帰ろう?」
「…お前にしちゃ上出来かな」
fin.
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作者名:いちはら | 作成日時:2017年6月18日 23時