365+1の約束(2) ページ7
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「…何か、あった?」
「………、」
北山の短い髪を撫でながら、できる限りの優しい声色でたずねる。
俺の問いかけに一瞬息をつめて、それからゆっくりと視線を合わせてきた北山は、まるで叱られた子どもみたいに眉を下げていたから驚いた。
「北山…?」
「あ、あのさ、」
「……うん」
どうしてそんな顔してるの、とは、言わせてもらえなかった。
俺の言葉を遮るように口を開いた北山が、近すぎてぼやけそうな距離で、まっすぐに俺の目を見つめてきたから。
このまま放っておいたら、涙がこぼれてきそうな瞳で。
「……、……」
「………」
何かを言いかけて口を開いては閉じて、また言いかけて…それを、何度も何度も繰り返す。
そんな姿を黙って見つめ返していると、ようやく決心が固まったらしい北山が、大きく息を吸った。
「……俺、さ」
「…うん」
「……あの……さ、」
「…うん」
「……ふ、藤ヶ谷のこと……」
「………」
「…あいしてる…よ。」
時間が止まったみたいって、多分こういう時のことを言うんだろう。
北山が何を言ったのか、何を伝えてくれたのか、それを理解するのにしばらく時間がかかった。
今…俺のこと、愛してるって言ってくれたの?
……このタイミングで?
嬉しいのと、突然のことでわけがわからないのと、でもやっぱり嬉しいのとで、どうしていいかわからずに北山を見つめる。
さっきまであんなに不安そうな顔をしていたのに、目の前の北山はいつの間にか優しく笑ってて。
涙をこぼしたのは、俺のほうだった。
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作者名:いちはら | 作成日時:2016年2月10日 0時