面影さがしの行く末は▽二北 ページ48
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適当に作った晩飯を腹いっぱい食べた後、リビングでそれぞれが好きなように過ごす時間。
ピンの仕事が多くて忙しいミツと俺の時間が合うことは実はそれほど多くなくて、今日だって一週間ぶりに二人きりで会えたっていうのに、食後の過ごし方はいつも通りバラバラ。
だけどそれがお互い心地よくて、恋人とやたらにイチャイチャするのが苦手な俺達には合ってるんだと思う。
BGMは俺が見てるテレビの控え目な音と、ミツがめくる雑誌の紙が擦れる音だけ。
「……カ、…ニカ!」
「…へっ?」
「へ?じゃねーよ。さっきからずっと呼んでんだけど」
「ごめんごめん、ちょっと見入っちゃってた」
聡くんがおすすめしてくれたから見てるだけだったドラマにいつの間にか夢中になってて、ミツが俺を呼ぶ声に反応するのが遅れた。
振り向いてミツの表情を伺えば、唇をとがらせてはいるけど、本当に拗ねてるわけじゃないことは目を見ればわかる。
この顔は、何か話したいことがある顔だ。
「どうしたの?」
「んー、まぁ別に大したことじゃねーんだけどさ。ニカ、この子タイプだろうな〜と思って」
「…はい?」
「ほら、この子」
いきなり何を言い出すかと思えば、この子タイプだろ?と唐突にテレビを指差したミツ。
ドラマはそろそろ終わる頃みたいで、画面に映ってるのは背が高くてイケメンの若手俳優と、最近よく見る美人な若手女優の二人だけ。
ミツが指差しているのは美人な若手女優…
じゃなくて、若手俳優のほうだった。
「え、なんでそっち?タイプの話だったら普通女優じゃないの?」
「だって、女優のほうは綺麗だけどニカの好きな系統じゃねーじゃん」
「……それはまぁ、そうだけど」
「お前さぁ、自分で気付いてないかもしんないけど、コイツのことすっげぇ見てたよ?」
俺の顔を見ながらニヤニヤと悪い笑顔を浮かべるミツは、なぜか随分と機嫌が良さそう。
妙に含みのある言い方が引っかかるけど、それにしてもどうしてミツがこんなに楽しそうなのか、俺にはその理由がさっぱりわからなかった。
だけどその疑問は、いつの間にか「この子」から「コイツ」呼ばわりになったイケメン若手俳優に目線を移したミツの一言によって、嫌でも思い知らされることになる。
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作者名:いちはら | 作成日時:2016年2月10日 0時