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Gravity▼藤北 ページ41

Ki side




打ち寄せるさざ波を眺めながらスケッチブックを広げていると、手を繋いで浜辺を歩く親子の姿が目に留まった。

波に近付きたがる子どもと、その手を引いて優しく微笑む母親の姿に、俺の頰も自然と緩む。



静かな波の音と、時折楽しそうに笑う子どもの声しか聞こえない、穏やかな時間。

水面に反射した優しい陽の光が、この景色をキラキラと彩っていく。


――この色を、描きたい…――

沸々と湧き上がる思いのままに、俺は鉛筆を手に取った。




…けれど、その直後。



「……!」



突然、穏やかな時間をぶち壊す無遠慮なエンジン音が響いて、しばらくするとそれは俺の背後で止まった。



「…誰だよ、こんなところにバイク停めた奴…」



心地良い昼下がりに割り込んできた“邪魔者”に気を削がれて、鉛筆を持った右手からも力が抜ける。

やり場のない苛立ちを隠さず振り返れば、ちょうど“邪魔者”がヘルメットを外そうとしているところだった。




「……あ…、」



びゅう、と強い海風が吹いた。

ヘルメットから覗く明るい髪が揺れる。


その乱れた髪を左右に振って現れたのは、思わず息を飲むほどの、圧倒的な「美」だった。





「……きれい……」




涼しげで、でもどこか儚げな、意志の強そうな瞳。

目の前の景色が、スローモーションのように流れていく。


さっきまで頭の中を占めていた苛立ちなんて、一瞬でどこかに行ってしまった。




直感よりももっと深いところ…

まるで本能的な何かで引き寄せられているみたいに、俺は“邪魔者”だったはずの男から目が離せなくなっていた。




あの美しい人を描いてみたい――

今すぐ、あの姿をスケッチブックに写し取りたい――



そんな焦りにも似た感情を抱いてしまうほどに。




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作者名:いちはら | 作成日時:2016年2月10日 0時

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