ある嘘つきの話▽倉→北 ページ23
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日付が変わった直後から、ピコンピコンと短い通知音が鳴りっぱなしのスマホ。
それを押しのけるようにして、慌てたようなやかましい着信音が鳴り響いた。
画面に表示された名前を見てもすぐには飛びつかへんのは、飛び上がりたいほどの嬉しさを隠すための、俺なりの無駄な努力。
無意識にニヤついてた口元を無意味に引き締めてから、俺はたっぷり間をあけて通話ボタンをタップした。
『あっ、もしもし、大倉っ!?』
「はいはい、大倉さんやでー」
画面を耳に当てた途端に飛び込んでくる、可愛い可愛い「親友」の声。
電話の向こうのあいつは想像通りの慌てぶりで、そのことに俺の心は人知れず満たされる。
どないしたん?と何も知らん風を装って声をかければ、今一番聞きたかった言葉が、一番聞きたかった声で届けられた。
『大倉、誕生日おめでとう!』
「…おー、ちゃんと覚えてたか。エライエライ」
『うわ、サイテー!俺が大倉の誕生日忘れるわけねーじゃん!』
「いやいや、お前最近物忘れ激しいからな。だいぶ老化進んでるみたいやから」
『ったく、なんで素直にありがとうって言えねーのかなー』
あぁ、ほんまにな。俺もそう思うわ。
ほんまは今、他の誰にも見せられへんくらい、めっちゃだらしない顔してんのにな。
他のお祝いラインは全部無視して、お前からの電話だけを待ってたくせにな。
…でもな。
いざお前の声聞いたら、柄にもなく胸がいっぱいになってしまって、ちょっとだけ苦しいねん。
これを歳のせいにできたら、俺はどんだけ楽になれるんやろうな。
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作者名:いちはら | 作成日時:2016年2月10日 0時