交わす熱 いざなう君の みだれ髪▽横北 ページ19
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「よこーさん、よこーさんっ!」
最近新しく買い足した俳句の本をソファーで熟読する俺の視界に、今やすっかり凡人が板に付いた「ミスター凡人」ことミツが、やたらとテンション高く飛び込んできた。
なかなかいい値段だったその本はあっという間に没収されて、無理やり手持ち無沙汰にさせられた俺は、必然的にミツのテンションに付き合わざるをえなくなる。
「…なに、どうしたの」
「ねぇねぇ、今日キスの日って知ってた?」
「………はぁ?」
耳慣れない、しかもかなりどうでもいい単語が形の良い唇から飛び出してきて、俺は思いっきり眉間に皺を寄せた。
そんなくだらない話のために、俺の勉強時間は奪われたのか…。
しかもその「キス」って、どうせ魚のほうじゃないんでしょ?
この後にミツがなんて言うかなんて、そんなもの考えなくてもわかるよ。
「ねぇ横尾さん、キスして?」
ほら、やっぱり。
「…断る」
「えぇっ!?なんで!?」
「なんでって、ここ楽屋でしょ」
「誰も見てないよっ?」
「誰も見てなくても俺が無理なの」
「そんなぁ〜…!」
ガックリと項垂れるミツにほんの数ミリほど決心が揺らいだものの、やっぱり仕事場でそういうことはしたくない。
ミツだって、普段はここまでゴネることはないのに。
乗せられやすいミツをそそのかした奴がいるような気がして、何となく思い当たった方向に目をやると、ニヤニヤと同じ顔して俺たちの様子を盗み見る双子と目が合った。
やっぱり、お前らの仕業だったか。
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作者名:いちはら | 作成日時:2016年2月10日 0時