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月が煌々と照らす夜。一台の車が山林に囲まれた人気の無い道路を走行している。車内には運転する伊地知とシートに身を預ける五条の姿が窺えた。
「学長との約束までまだ少しありますけど、どこか寄ります?」
「いいよ。たまには先に着いててあげよう」
その言い分だと遅刻するのが常なのが察せられる。少しは懲りろ。ちなみに夏油は別の任務でこの後の約束で会う予定。特級二人が揃った地下室がどれほど貴重な時間を割いたのかがよく分かる。調整した補助監督の労力も、よく分かる。
「……止めて」
「えっ…、ここでですか?」
不意に窓の外に視線をやった五条が静止を促した。道路の真ん中だぞ。
「先行ってて」
「えぇ!?」
「これ、何か試されてます?」
「僕をなんだと思ってるの?」
本当に行ったら殴る的な、と零す伊地知にそう言い返した。これは日頃の態度の問題だ。仕方が無いだろう。エンジン音を響かせて伊地知を乗せた車は去って行く。
「さて」
舞台は整ったと言わんばかりに独りごちて、その背後の月に逆光でナニカの影が浮かびあがった。衝撃。五条が立っていた場所に好戦的に嗤った単眼の、あの呪霊が落下。地面は呪霊を起点にひび割れ脈打つ。事前に呪霊を察知し、伊地知を退かせ攻撃を跳んで回避した五条はこう問いかけた。
「君、何者?」
「ヒャアッ!!」
奇声を上げ右腕を軽く振る動作。すると五条の後方の壁面に小規模の火山の火口の様なものが生まれた。完全に不意打ち。火口から火炎放射器など優に越え、それを上回る程の炎が噴出。その威力は離れた山林にまで届き舗装されたコンクリートの道を溶かした。
「存外、大したことなかったな」
不意打ちの高火力。単眼の目を三日月型に歪め口を開く。だが、言葉が返ってきた。
「誰が」
「大したことないって?」
右手の指で印を作りそう告げる。五条の周り、円を描くように炎は遮られている。術式、だろう。
「小童め」
悪態を吐き側頭部にある詰め物を回す。
「(呪霊のくせにしっかりコミュニケーションがとれる。その上、この呪力量。未登録の特級か…)」
「(恐らく、今の宿儺より強い…!!)」
「特級はさ、特別だから特級なわけ。こうもホイホイ出てこられると調子狂っちゃうよ」
「矜恃が傷ついたか?」
「いや、楽しくなってきた」
特級同士。お互いまだ実力は序の口。
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作者名:ボーダーライン | 作成日時:2021年11月4日 16時