【呪術廻戦】 これは、君を失うまでの物語

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夕日が差し込み、木目が琥珀に色づく寮の廊下を虎杖は一人歩いていた。緩い部屋着を身に纏い進む足取りは静かにゆっくりと而して着実に前に足を動かしている。耳に聞こえるのは窓から見える木の葉が散りゆく木のざわめきでもなく足の重みでフローリングが軋む床の悲鳴でもなく雑音と言って良い程の嘲るような笑い声。

一人になりたいと思っても一人にはなれない自分が選んだ業。人が苦しむ姿を鑑賞するのを好む孤高の王は目の下から眼下を覗かせ、わざわざ口を露わにして愉悦に歪めた。


「オマエのせいだ」

「オマエが俺を取り込んだ。目覚めたんだよ、切り分けた俺の魂たちが。大勢の、ケヒッヒヒッ、人間を助けるか」

「小僧！！オマエがいるから！！人が死ぬんだよ！！」


同級生が今まさに別の場所で告げないようにと口止めをしていたにも関わらず、否、そんな気持ちを踏みにじるのが愉しいのだと言わんばかりに宿儺は鋭利な言葉の刃を突き刺す。

伏黒が特級呪霊と交戦した際に気付いた事態。気配が大きすぎるモノ、息を潜めているモノ、既に呪霊に取り込まれているモノ。取り込まれた呪霊の中で力を抑えていた宿儺の指が六月の虎杖の受肉をキッカケに呪力を解放した。それにより呪力を元へ集まる呪霊も多くなり、取り込んだ呪霊の力も倍増する。呪霊の力が強大になり密集する呪霊が多くなれば襲われる人間の数も比例して多くなる。

学長との入学前の面談で、虎杖はこう言っていた。宿儺を食べるという使命から逃げたら、ふとした時に”今宿儺のせいで人が死んでいるかも”と落ち込み”自分には関係ない、自分のせいじゃない”と言い聞かせるのはゴメンだ、と。自分が死ぬのは分からないが生き様で後悔はしたくない、と。

今すぐ宿儺の指を全て取り込むことは不可能だ。探す手間も時間もかかる。だが、その間に犠牲者が出てしまうかもしれない。虎杖が器となって力を増した指たちの影響で。







「おい。それ伏黒に言うなよ」

「！」


前を見据え、表情を消して呟いた虎杖の脳裏には、少年院での伏黒の言葉が蘇っていた。遺体を持って帰ると言った虎杖を拒絶し助ける価値のない人間だと言い切った彼に掴みかかった時、彼は大勢の人を助けて正しい死に導くことに拘っている虎杖に問題点を指摘する。あの言葉をオマエも聞いていなかった訳ないだろう。


＿＿＿「自分が助けた人間が将来人を殺したらどうする」

「言うなよ」


五条と夏油に進言して虎杖に執行猶予を付けさせたのは伏黒だ。宿儺が目をかけた彼だ。言外に言い募る意図に思わず宿儺も黙る。

知ってしまった、気付いてしまった。あの頃の気持ちでは、いられない。

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