【呪術廻戦】 これは、君を失うまでの物語

第54話　沸き立つ慕情にされど哭く ページ40

去年引っ越した翡翠の家は白と茶色を基調とした温かみのある部屋だ。30代一般男性にも関わらず結構広い。まぁ葬儀屋の他にもしてる仕事があるので収入的には一般男性と比べるのも烏滸がましい。そんな翡翠の家に泊まって迎えた朝、洗顔してご飯を食べ、歯磨きした今。ソファに座ってヘアバンドで髪を上げた私の目の前には、テレビの前の小さめのテーブルを後ろに化粧道具を手に持った翡翠が立っていた。スカーレットは私の横で眺めている。


「Aは肌白いから血色感がなかったり隈が目立ってピンク系の色が入ってる肌馴染みのいい色を使うといいよ」

『ピンクベージュとか？』

「そう。濃いベージュや黄味の強いものは透明感がくすんで疲れた印象になっちゃうんだ」


化粧品店のBAかお前は。そう言いたくなるくらいの解説をしながらピンクの下地兼ファンデを日焼け止めを塗った肌に塗布して広げていく。毛穴と逆らうように塗ると落ちにくいらしい。パープルのフェイスパウダーをブラシでふんわり塗り広げ、ハイライトとシェーディングを施せば顔が小さくなった。スクリューブラシで毛流れを整えペンシルとパウダーで眉を完成。なんだ手際がいいな。







次に手に取ったのはアイシャドウ。秋らしいボルドーがメインのパレット。瞼を閉じてブラシが動いているのを感じていると不意に声がかかる。目を開けて鏡を見ると感嘆の音が出た。グラデーションが絶妙で瞳の色と合っている。お前葬儀屋だよな？？

アイラインを引いた上にアイシャドウの締め色を重ねて、睫毛を上げてマスカラ下地を塗り乾いたらマスカラを毛流れに沿って塗る。人にされるのは初めてだけど友人故にか瞬きしたい時離れて嫌じゃない。アイメイクが主役なので唇は控えめに血色感のあるピンクリップ。ヘアバンドを外して髪を編めば、とても翡翠がメイクしたとは思えない仕上がり。


「うん、可愛いくなった」

「見事なものね。ヒスイにこんな特技があったなんて知らなかったわ」

「特技というか葬儀屋の仕事の一環だね」

『それは死に化粧では？？』


このクオリティで葬式が開かれるのか。参列者困惑しない？親族どういう気持ちで合掌すればいいの。


「一緒じゃないかな。女の子ならさ、亡くなった後でも人の記憶に残るのなら綺麗で可愛いままでいたいじゃないか。あからさまな死に顔よりまるで眠っているかのようだったら見送る側だって気持ちも幾分か違う」

「だからうちもそういう化粧プランもありますよって提案してるの。A、練習付き合ってくれてありがとう。折角お洒落したんだ。図書館カフェが近くに出来たから行ってみる？」


彼氏力高いなコイツ。

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