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虎杖の気づきを通して自分たちが殺した相手にも確かに息づいていた感情と意思を知った釘崎は気持ちを推し量って先程見せた笑顔を消した。後悔はない、生きるか死ぬかの二択しかあそこには存在しなかった。熾烈を極める攻防の末、釘崎と虎杖が生きて、血塗と壊相が死んだ。どっちも生きていたかった。どちらも生きるという選択肢はなかった。だから、殺し合った。全力で呪った。俯いて少しの静寂の後に言葉を吐き出す。
「……そっか」
「俺は自分が…、釘崎が助かって…生きてて嬉しい。ホッとしてる。それでも、俺が殺した命の中に涙はあったんだなって。…それだけ」
「……そっか。じゃあ___共犯ね、私たち」
弔いなど殺した側がするのはお門違いだろう。2人の遺体を隣同士で並べておいたのは、特級と戦った報告で回収するのに離れていたら困ると思ったから。他に、特に意味はなくそれだけだ。
見開いたままだった壊相の目を閉じたのも、同情なんて欠片もなかった。ただそうした方がいいと思っただけ。これから遺体は検分されて調べ尽くされた後に焼かれてしまう。止める気はさらさら無い。呪詛師を処刑するのは呪術師の仕事の一つ。でも、彼らを殺したことを罪と称することが、釘崎と虎杖のせめてもの手向けだった。
忘れることを、選ばなかった2人は地面を踏みしめて友の待つ河原へと足を進める。もう、後ろは振り向かない。
「「ふっ…伏黒?」」
宿儺の指が放つ呪力を辿った先で、沈痛な表情を浮かべて座り込む吉野の傍らに”澱月”に包まれてピクリとも動かない伏黒の姿が目に飛び込んできた。顔色も悪くなく、怪我も一見していない。恐らく”澱月”の中で術式反転の治療を受けたのだろう。それでも目を開けず倒れ込む様子に釘崎と虎杖の脳内に最悪の事態が過る。
吉野の薬は当然生きている人間に作用するものだ。特級呪霊と交戦した傷も癒えている筈。それなのに”澱月”に入れ続けるのは、状況を受け入れられない吉野が治療を施そうとしているからなのでは。そんな考えに冷や汗を垂れ流しゴクリと息を呑む釘崎と虎杖、険しい吉野の視線を浴びている伏黒は突如むくりと起き上がり第一声を発する。
「おっ、戻ったか。良かった無事で」
「「ビッ、ビビったーっ!!死んでんのかと思ったー!!」」
「声量落としてくれ…」
起き抜けの頭に2人分の絶叫はガンガン響いて木霊する。君のせいだよ、と吉野のシビアなツッコミが鋭く放たれた。
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ボーダーライン(プロフ) - セツさん» わぁ、初コメ有難うございます!そんな、全然失礼なんかじゃないです。嬉しいです!コメントがやる気に繋がります。続編のプロローグは黒影にスポット当てようと思ってるのでご注目宜しければ。コイツの”叫ぶ”を書いた時は感情移入して泣きました。続き頑張ります! (6月12日 22時) (レス) @page50 id: 6d6b1b008a (このIDを非表示/違反報告)
セツ(プロフ) - 初コメ失礼します。続編おめでとうございます!続き楽しみにしているので、頑張ってください! (6月12日 21時) (レス) id: a9c1286aea (このIDを非表示/違反報告)
ボーダーライン(プロフ) - そらさん» コメント有難うございます。2ヶ月近く更新してないので大分お待たせしてしまってすみません!完結まで構想練っているのであとは気力次第。ぼちぼちやりますかぁ!(逃げ道を絶つ)紆余曲折あると思いますがこの大長編にお付合い下さい。これでもまだ中盤なの(小声) (2023年3月27日 16時) (レス) id: 6d6b1b008a (このIDを非表示/違反報告)
そら(プロフ) - 更新楽しみにしています! (2023年3月27日 0時) (レス) @page2 id: b809f0b9bc (このIDを非表示/違反報告)
ボーダーライン(プロフ) - ご指摘ありがとうございます!焦ったぁー!!気付かせてくれて本当に感謝! (2023年1月1日 14時) (レス) id: 6d6b1b008a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ボーダーライン | 作成日時:2023年1月1日 14時