【呪術廻戦】 これは、君を失うまでの物語

＊ ページ25

「…あの女、何をしている」

「釘崎！！」


不可思議な動きと不穏さに嫌な予感が拭えない壊相を余所に、合図を送らんと声を張り上げる虎杖を目下の釘崎は笑って応えた。呪力で浮かびあがらせた釘の切っ先は、虎杖が黒閃で飛ばし地に転がる壊相の右腕。ハートマークの紙を編み込んだ藁人形がその上に乗っかって今か今かと役割を待っている。全力で打ち込もうと両手で握りしめた金槌を肩の上にまで振り上げた体勢で。


「急かすな」

「＿＿＿芻霊呪法 ”共鳴り”！！」


勢いよく振り下ろされた金槌は藁人形の下、対象の腕まで釘を貫き通した。瞬間、壊相の心臓から黒い棘が2本肌を突き破ってその姿を曝す。以前、七海が猪野のインタビューを受けてこう言っていた。黒閃を決めると術師は一時的にアスリートでいう”ゾーン”に入った状態になる、と。

黒閃発動直後の渾心の”共鳴り”。その威力に思わず吐血が零れ出る。同時にこれまでの予測が勘違いだったことを悟った。咄嗟に胸を押さえて人質にとっていた一般人が支えを失って荷台に倒れ込み、抱え直すことも足を踏ん張ることも出来ずに壊相は荷台から道路へ落ちていく。

吹き飛ばした右腕を釘崎に任せ、追いかけた虎杖に注視を向けて、”共鳴り”で不意打ちを仕掛ける。緻密に考えられた連係プレーは確りと成功して虎杖はトドメの拳を構えた。







「(呪詛返しの術式ではなかったのか！！)」

「クソッ…がぁ！！」

「ごめん」


回避することは出来ないと理解し、防御態勢も取らずに視線が交わった一瞬の後にぽつりと呟いた虎杖は無防備な土手っ腹に重い一撃を叩き込む。背中を突き破る程の打撃を受けた肉体は血液を撒き散らし地面に崩れ落ちた。

分解の特性を持つ血潮を浴びた拳は強く痛み、袖口は少し溶けていく。術者が死んだ今術式が解けて感じる痛みは時期に消えるだろう。でも、痛む拳を虎杖は焼き付けるように眺め続けた。呪霊だと思っていた。本当は人間だった。人を殺す道を選んでいたけれど、敵対していたけれど、倒すしかなかったけれど、人だった。傍らで消えることなく残った遺体がそれを確かに示している。人を、殺すのは。


「いってぇ……」


痛みに呻く虎杖を、覆い隠していた雲が流れていった月が微かに照らしていた。

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