【呪術廻戦】 これは、君を失うまでの物語

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道路の真ん中に立っていた釘崎と虎杖をすんでの所で衝突を免れた運転手は高鳴る心臓の鼓動を雄弁に感じていた。助手席に座る中年の男も冷や汗を流しながら向かっ腹を立てる。車が通るってのに突っ立ってやがって。ここはガキの遊び場じゃねぇんだよと悪態が怒号となって現れる。


「危ねぇなぁ！！」

「おん？」


助手席の窓から腕を出し、身を乗り出して注意した肩を誰かに掴まれて咄嗟に懐疑的な声を上げた男は窓枠から引きずり出されて荷台に乗り上げた。予期せぬ一般人の侵入は、劣勢に立った壊相にとってこれ以上の好機はない。しかも車なのだ。走るよりずっと早く戦線を離脱できる。虎杖なら追いつけるけれど捕えた男は人質として有効に呪術師たちを牽制できるだろう。

首を伸ばし、車窓から運転している男に見えるように顔を曝して命令を下す。平穏な日常に染まりきった民間人でも肌で分かる呪いの気配、圧倒的強者の風格は生命の危機を認識するには十分すぎる。


「スピードを上げろ。ブレーキを踏めば殺す。オマエもコイツも」

「分かったな？」







恐怖に表情を引きつらせて何度も頷く男は何でも言うことを聞く下僕と化した。一般市民を救出しようと駆け出す50ｍを3秒で走る虎杖は車に追いつくことなど造作もない。あと少し速度を上げれば飛び乗れるであろう距離に接近した虎杖の目に足を止めるに足る出来事が飛び込んできた。見せつけるかの如く、掲げた中年男性へ壊相は虎杖の善性を利用した精神攻撃を加える。


「あ”ぁあああ”ぁあ」

「追うなよ、呪術師」


肩口から噴き出る血液を操り、欠損した腕を形作って身動きできない一般人の首に押しつけたのだ。壊相の術式は毒性を持つ血液に呪力を込めて自在に操作し、血を取り込ませた対象を媒介して肉体を溶解するもの。血液を操る特性を生かして腕を作る応用もまた可能だ。

そんな分解と毒を含む血潮を、痛みや呪いに耐性のない普通の人間に食らわせる所業は捕えようと近づけば傷つくのは己ではなく何の罪もない人だという事実を虎杖に突きつけて思わず焦りが滲む。一般人は骨身に染みる程の苦痛で、白目を剥いて気絶した。これでは抵抗など出来もしない。


「(この2人、特にあの女は傷を癒やし確実に殺す)」

「(すまん血塗…！！弔ってやれなくて、だが必ず私が仇を＿＿＿)」


心中、報復の決意と懺悔の思いを固めた壊相の視線は、荷台に載って高くなった視点と先程いた道路から進み丁度反対側に位置した関係で見える、血塗の亡骸の傍らで何かに向かって金槌を振り下ろそうとしている釘崎を捉えていた。

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