【呪術廻戦】 これは、君を失うまでの物語

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釘崎が打ち込んだ釘、虎杖が叩き込んだ拳に篭められた呪力が黒く瞬き、稲妻のように迸り2.5乗の威力となって血塗の額と壊相の右腕を吹き飛ばした。

呪胎から受肉したばかり、言わば生まれたての九相図には知識がない。元になった人間が保有する情報は脳を通して知っているが、一般人にはどう足掻いても黒閃など知る由もないだろう。黒閃は現象であって技ではない。術式や呪力、基本的な呪術は心得ていても狙って出せる術者は居らずごく稀に起こる事象を懇切丁寧に教えてくれる程優しい者は呪霊一派にはいなかった。故に、訳も分からず今までとは格段に違う攻撃を食らった壊相と血塗は戸惑いと驚愕に身を震わせることしかできない。


「(なんだ今の、黒い光は！！私は確かに…確実に呪力で強化した腕で拳を受けた！！だが、気付けば肩ごと飛ばされていた！！)」

「(ああ、弟よ。死ぬな！！弟よ！！)」


欠損し血が噴き出る肩を押さえ、悲壮な表情を浮かべる壊相の見つめる先は、次の攻撃を読んで回避する為に相対している虎杖ではなく、打ち込み金槌を振りかぶっていた体勢を整えた釘崎の前で衝撃に口を大きく開けて地に伏せたままピクリとも動かない血塗の姿。

腕だけ欠落した壊相とは違い、脳が詰まっているであろう頭に大ダメージを負った血塗は意識を保っているかどうかすら怪しい。今、血塗は無防備の状態。ここで釘崎が追撃を仕掛けても一切の抵抗も出来ずにされるがまま。援護しようにも先の一撃で”翅王”は解けてしまった。悲痛な思いを抱える兄の心の声が届いたかの如く、壊相の方を振り向いた釘崎の背後から決死の絶叫が轟く。







「あ”っ、兄者ァアア”ア”アッ！！」


釘崎の肩を掴みかかろうと伸ばした手とその頭を食いちぎらんと口をガバリと開いた血塗に思わず壊相も勝利の笑みを零す。完全に不意打ち。やられた仇を返して釘崎を殺した後は虎杖を2人で倒して兄の元に一緒に帰ろう、そんな希望を抱く反逆の行為。冷や汗を流して釘崎を勢いよく見やる虎杖の不安を当の釘崎は数秒後に死が待ち受けているにも拘わらず平然とした顔で指を鳴らす。


「まだこっちは見せてなかったわね」

「”簪”」


瞬間、黒閃で打ち付けた釘に呪力が宿り血塗の頭を無慈悲に貫いた。ただ釘に呪力を纏わせ対象に打つだけの術式じゃない。ここまでの戦闘で使っていなかった技は予測など出来ようものか。ドサッと重力のまま落ちた肉体は、兄の願望とは裏腹、もう返事をしなかった。


「心配しなくても、すぐに兄貴も送ってやるわ」

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