忘れ得ぬ抱擁 1/ 政(リク) ページ28
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あの時の抱擁を、忘れはしない。
「コラァ!A!!お前はまた許可なく国外に行きおって!!」
清々しい晴れの元、秦国王の私的な庭の建物で怒声が響き渡る。
大王・嬴政の側近、昌文君は青筋を浮かべ自分の部下を叱った。
「まあ殿、そんなに怒っていては身体に良くありませんわ」
しかし叱られた本人であるAはどこか飄々としている。
それを御簾の向こうで静観していた秦王・嬴政はクツクツと笑う。
「その辺にしておけ昌文君。Aのお陰でいつも助かっているのだ」
「…大王様はAに甘いのではありませんか」
どこか呆れた風にこぼす昌文君。これに関しては過去何度も起きているので、昌文君も毎回怒りつつも今回も何だかんだでこのまま流れてしまうだろうと諦めることにした。
しばらくして部下に呼ばれて昌文君が去ると、部屋には政とAのみになった。政は御簾の中から出てきて直にAと対面する。
「今回もご苦労。Aのお陰でいつも本当に助かっている」
「大王様のためですもの、これくらい苦ではございません」
見ている者を自然と安心させるような笑みは、大王として常に気を張っている政の心を和らげていくよう。
そっと、Aは部屋から見える外の景色に目をやった。政も同じくそちらを見やる。風花がはらはらと舞い落ちていく。
ああ、この時間だ、と政は一人心の中で安堵する。誰にも邪魔されない、Aとの時間。王として安らげる時間は少なく、その少ない時間を彼女と過ごしたいと思う。政の、本当に数少ないわがまま。
「晴れた日に見る雪も風情がありますわね」
「ああ、そうだな」
お前と共に見るからこそ、より価値があるのだと言ったらAはどんな表情をするのだろう。見てみたい気もするし、見たくない気もする。相反する、想い。
「大王様、あの」
「政」
僅かに沈黙が落ちる。
チラリと横からAの視線を感じたが政は無視した。これだけは譲らん。
ここに信でも居たら、笑い飛ばしたかもしれない。
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葵 - この話好きすぎて何回読んでも飽きません いきなりですがリクいいですか?政の妹で信と蒙恬と王賁と貂ちゃんで絡んで欲しいです (2021年11月22日 10時) (レス) id: 1b00569172 (このIDを非表示/違反報告)
識(プロフ) - なんかもう昌平君の話がもうたまらない!!!いつも読んでは感動しています! (2021年5月31日 11時) (レス) id: 8de27f30e5 (このIDを非表示/違反報告)
ハミィ - リクエストです!桓騎将軍の話を書いて欲しいです!出来たらお願いします。どの話もとても面白いです! (2020年9月9日 3時) (レス) id: b2c428b5bb (このIDを非表示/違反報告)
いちご飴 - また慶舎書いてほしいです!激甘で! (2020年8月11日 11時) (レス) id: fe4f65c6ae (このIDを非表示/違反報告)
midori(プロフ) - るーるるさん» 初めまして!るーるるさん、初コメントありがとうございます!作品を大好きだと言って頂けて、とっても嬉しいです! リクエストもありがとうございます。輪虎、承りました!素敵なお話をお届けできるよう頑張ります! (2020年6月17日 13時) (レス) id: 55b1e5ee37 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:midori | 作成日時:2020年5月7日 14時