瑞色涼想い 井上瑞稀&橋本涼

涼想い ９ ページ19

｢あの……｣


｢っ、な、に？｣


｢今日……一緒に帰らない？｣


こわごわ誘えば


案の定、ハッキリしない返事。


｢……何で？｣


｢話したいこと、あって。｣


｢ここじゃダメなの？｣


｢……うん。
二人きりが、良い。｣


嫌われる覚悟で粘り強く渋る。


しつこいって思われてるだろうな。


でも、最後だから。


これが最後のチャンスだから。


…………お願い。


スポーツバッグの持ち手を


ギュッと握りしめたときだった。


｢……うん、わかった。
また校門で待ってるね。｣


Aは早口でそれだけ言うと


そそくさと教室を出ていってしまった。


『ありがとう』を言う暇さえなくて。


ーもしかしたら、言うだけ自己満足なのかもしれない。


そんなことを、思った瞬間だった。


今日は顧問が不在のため、いつもより早目に終わった部活。


俺はさっさと制服に着替え、一人駆け足で校門へ向かう。


少し早すぎたのか、まだAの姿は見えなくて。


どうしよう、怖い。


だってもう絶対嫌われてる、って確信してしまったから。


まだ日の暮れていない校舎。


冷たい手を、擦り合わせる。


｢はしもっちゃんじゃーね！｣


｢お？彼女でも待ってんの？｣


｢違うし！また明日な！｣


通り過ぎる部活仲間。


……彼女、かぁ。


彼女……。


大きなため息をついたとき


背後から聞こえた、小さな声。


｢ごめんね……お待たせ。｣


急いで来てくれたのか、息を切らすA。


手にはマフラーと手袋。


｢ぁ、いや、全然大丈夫！
帰ろっか。｣


Aはこくんと頷き


ちょこまかと俺の横に来た。


ーまぁ、当然気まづい沈黙が流れるだけで。


下りのガラガラな車内、二人で揺られる。


いつ切り出そう。


俺だけソワソワドキドキ。

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