第七夜 オレたちは蜘蛛 ページ9
「遠い…？」
「もう、気は済んだかお前たち」
クロロの台詞に、は、と彼女は我に返る。
「こ、こんなの、夢に決まってる、じゃないですか」
そうだ、そうよ。
Aはシャルナークからそっと離れる。これが、現実だというのなら、自分は一体どこへ来てしまったんだ。この人たちは一体なんだ、そして自分は、なぜここに？
「が、どう思うかはAの自由だ」
「……」
クロロは、ゆっくりとAの方へ近付く。それに気付いた彼女が、一歩後退る。
「こわいか？」
い、いや…、と彼女は答えた。が、その肩は悲しいほどに小さく震えている。
こちらを見上げる瞳は、“かつて”彼女が見せてくれた瞳とは全く違う。やはり、慣れないものだ。こんな怯えた目を見せられるのは。
『お願い、待っていて…』
あぁ、待っていたさ。お前が、オレたちのところへ再び訪れる日を。だが。
繰り返すのは何度だって同じ一日。だって彼女は…。
クロロは、彼女の前にそっと跪くと、そしてその顔を上げた。
彼女に会えるのなら、何度だって出逢おうではないか。何度だって繰り返していい。
「オレたちは、この世界で“幻影旅団”という名で、盗賊をしている」
「だ、団長？」
思わぬクロロの発言に、周囲の仲間たちが驚いた。
こんなことをクロロが彼女に言ったのは初めてだった。
「と、盗賊って…？」
今を、自分たちの存在を、この世界を夢だと言い切った彼女を、否定したのは“今日が初めてだった”。
「幻影旅団、またの名を蜘蛛。オレたちは、蜘蛛として、それぞれがその脚となることを誓いに、今まで生きてきた」
そう、それは。今目の前にいるお前が教えてくれたことだ。
「団長……」
今まで一度たりとも無かったこの特例に、仲間たちは眉を潜めた。そして。そんなクロロに、ついに“今まで”溜め込んでいたウヴォーギンが、その思いを吐き出した。
「A…」
その声に、彼女が振り返る。
「信じろ、なんて言わねえ。それでも、それでもいいと、オレたちは望んだからな…。だが、やっぱり、オレはっ……！」
「ウヴォー、すまない。後は…リーダーである、オレが」
「けど団長、ウヴォーが…」
言いかけたウヴォーギンに被さったクロロの声。シズクが制止の声を上げるが…。
「あぁ、分かってる。団長が…」
シズクに、ウヴォーギンは言った。やはり、ここは自分より、彼にと。クロロは、もう一度、真っ直ぐな目をAに向けた。
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作者名：アユミ | 作成日時：2018年11月15日 0時
