第六夜 夢じゃない？ ページ8
「あの！ すみません、こんな…。私のせいで、場の雰囲気を…。お邪魔でしたら、私行きますから」
「バカ、そういうことじゃねえよ！そもそも、そのお前の態度も、オレたちは気に入らね、」
「A」
クロロの声に、Aは止まる。
「行く宛は、ないだろう？」
「いいんです、別に…」
「それは、お前がこれを“夢”だと思っているからか」
「…それは」
「夢じゃない」
「クロロさ…」
クロロはそっと、立ち上がる。
「いずれ、分かる時が来る。ただ、今目の前で起きている状況も、ここにいるオレたちも、そしてお前にとってこの知らない街も、全て夢なんかじゃない」
はぁ？、と首を傾げたい気分だったが、クロロの真剣な表情がそれを許さなかった。夢じゃない、だと？ 気が付いたら見知らぬ所にいて、何の不安も不信感もなく、見知らぬ男についていき、変な場所に連れて来られて。挙げ句仲間とかいう変わった連中がぞろぞろと現れて。これの一体、どこを夢でないというのだ。
「現実だ」
「な、そんなこと……」
「今は信じられなくても、いずれ分かる時が来る」
「そんな…。こんなの、夢に決まってるじゃない…」
「夢じゃないよ」
顔を上げると、そこには眼鏡をした歳の近そうな女の子が。彼女は確か…。
「夢じゃないよ。だってあたしたち、ここに存在してるもん。今だって、Aと話をしてる」
確か、名前はシズクだったはずだ。
「触れられるんだよ、ほら」
あ、と小さく声を上げる。シズクの色白の指がそっと、Aの頬に触れた。
今、なんとなく……現実味を帯びてきた気がする。
触れた瞬間、分かった。彼らは、今目の前にいる。目の前で、生きている。これは、自分の作り上げた想像なんかじゃない。
夢、じゃない。
「本当……？」
Aも、同じように自分の手をシズクの頬に触れる。確固たる証拠なんてどこにもない。でも、なんとなく信じられる。
この世界は、現実だ。
「だったら、ここは、一体…」
「別の世界」
え、とシャルナークの台詞にAは声を上げる。
「Aが生きている世界とは、全く別の世界なんだ」
別の、世界、ですって…？
ついて行けぬ状況に、頭がパンクしそうになる。別の世界だと？そんなおかしな出来事があるというのか。
「きっと、オレたちの距離は、世界一遠い」
シャルナークはそう言った。その横顔は、酷く寂しげで、声こそは淡々としているものの、どこか悲しかった。
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作者名：アユミ | 作成日時：2018年11月15日 0時
