【Ｈ×H】長月のセレナーデ【幻影旅団】 (ページ49)

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第四十七夜　そして急ぐ君の眼に焼きついて離れないページ49

彼女は最後にそう言った。

　気付けば、そこに誰もいなかった。絶望の朝は、静かな足音を立て、訪れていた。

「まさか、そんな……」

　まさか、そんな。Aにそんな思いをさせていたとは。自分はそんなに、遠い目をしていたのだろうか。

　Aには、お見通しだったらしい。自分が日々怯えながら、彼女と過ごしていることを。明日にはもう、Aとは会えなくなるかも知れない。

　そんな風に、恐れながら、彼女の隣に立っていたことも。

『必ず帰ってくるから』

　あの台詞を、もう一度言わせてしまった。

「お前が約束を守ったことなんて、一度足りともないだろ……」

　行くな。ずっとここにいろ。そう言ってここに、縛り付けてしまいたかった。元の世界へも戻らなくていい。
　あんたはオレのものだ。そう言って、ここへ連れ去ることができたなら……。

　過去に戻ったあとの彼女は、どこへ行く？
　 Aは、この時代のオレたちの場所へ飛ばされ、オレの知っている限りでは、このあと恐らく10年前へ飛ばされるはずだ。10年前、オレの前に現れたAはオレのことを知っていた。そしていずれ、大人になったオレの元へまた会いに来る、と彼女は言っていた。

　その後だ。過去に戻ったあとの彼女は、一体どこへ行くんだ？ 10年前、オレの前に現れたあの時のAはある日突然消えた。

　どこへ？

　元の世界へ？いや、そもそもこの世界から消えたとも限らない。あの頃のオレと会えなくなる理由や状況があったのかも知れない。

　＿＿＿我々は、何ものも拒まない。だから、我々から何も奪うな。

「いや、まさか」

　来るもの拒まずの流星街。しかし、奪われることは許さない。

　何かの力で、突然この世界へ足を踏み入れた彼女。流星街へ、ふわりと舞い込んだ彼女。

　Aの元いた世界が、もし彼女を返して欲しいと叫んだとしても、それをあの街が許すことは決してないだろう。

「……、ふ」

　気付けば、ほくそ笑む自分がいた。なんと愚かだろうか。
「お前らに、……Aは渡さない」

　あの街へ彼女が踏み入れた以上、もうAがどこかへ帰るなんてことはないのだ。あの街は、何も拒まない。そして、抜け出すことも許さない。10年前、Aが流星街へ来た時既に運命は決まっていた。もう、元の世界へ帰ることなどできない、と。

　Aは今も、この世界のどこかをさ迷っている。

　その日、九月一日。

　Aが、その日から来ることはなかった。