第四十六夜 彼女はオレにそう言った ページ48
「今のは、その、言葉のあやで……」
気付けば、そそくさと団員たちが退散していく。待ってよ。
ねえ、ちょっと。私をここでひとりにしないで。ここで、いまのこの状況で、二人きりには……。
「フーン……」
小さく、クロロの声が聞こえた気がした。
「言ってくれるね? A」
無邪気な一人の男の子の顔が覗き込む。さら、と黒く透き通る絹糸のような髪が音をたてて散らばった。隙間から覗くガラス玉のような瞳が、私をとらえて離さない。
それは、いつも私が見るようなクロロの顔じゃない。悪戯っぽく、どこか楽しそうで。
昼休みの教室で見るような、いたって普通のクラスの男の子。
そんな感じがした。
「何が見たいって?」
「……べつに?そんなこと、言ってな……」
ふが、ときれいな手が私の口を塞いだ。
「オレ、結構我慢してたつもりだったんだよね。オレの知っているAはオレより大人だったから。けど今はこうして、オレよりも小さいAが目の前にいる」
覗き込まれた、黒く透明なガラスの瞳。閉じ込められてしまいそうだった。泣きそうなくらいに、その目は呼んでいた。
どこにも行くな、と。
「あんたを拐ってやりたい。オレたちの世界へ、とかそんな広い場所じゃなくてね」
オレの元へ、ね。
クロロの台詞が、頭で木霊した。
「ふ、なに……よ。もう、クロロったらもう!」
私は塞がれた手を振り払って目の前のこの、黒い男に叫んでやった。自分のほっぺたが少し熱い気がした。
なぜ?
「そうやって、いつも少し遠いところから私のことを見てるじゃない!」
気付きたくなんてないの。いっそ知らぬふりをして蓋を閉じてしまいたい。
「あなたがいくら遠い昔から私を知っていようと、私は今の目の前のクロロしか知らないのに……」
気付いたら、きっと苦しくなる。この単純な、感情の名前に。
「昔の思い出に馳せているクロロを見ると、辛いの……」
幼い頃に私と会っていたんでしょう。そしてずっと、その時の私を、クロロは思い出している。それがなんだか寂しかった。
例えこの先、その思い出を知っていくことになろうとも。今目の前のクロロと、分け合える今を、大切にしたいんだもの。
「絶対に、帰ってくるから……」
確証なんてないよ。でも。今度こそ、約束するよ。
「過去に行くことになったとしても。必ず、帰るから」
だから、そんなに泣きそうな顔をしないで。
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作者名:アユミ | 作成日時:2018年11月15日 0時